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あれはそう。
遡ることおよそ7年前の4月頃の話。
高校の写真部に入っていた私は、例年より少し遅く咲いた満開の桜を撮影していた。
校舎前の桜並木は地元では有名になるくらい綺麗で
そのあまりの美しさにグリップを握りファインダー越しに桜を眺めた。
ピントを合わせパシャリと写真を撮る。
目の前の美しい風景が形になる事があの頃の私の喜びであった。
その時だった。
「なーに撮ってんの」
後ろから聞き慣れた声がしてカメラを下ろし振り返る。
「あ、絹張くん…だよね?」
久しぶりの会話にあどけなさを残してしまった事を少しだけ後悔した。
「そう!覚えててくれたの?」
「だって自己紹介の時一番目立ってたから」
あたかも初めて顔を合わせた者同士のように進められてしまう会話が胸を締め付けるのを感じた。
「はは、やっぱりちょっとスベってた?」
「うん、少しね」
彼にとってはそんな事は御構いなしなのだろうけれど。
「で、何撮ってたの?桜?」
桜の木の隣にしゃがむ絹張くん。
不思議と絵になってしまうように思えた。
「そうだよ。綺麗だから写真で残そうと思って」
「ほんと綺麗だよな、ここの桜
あ、写真見せてよ」
大雑把そうな彼がそんな繊細な事を思っていた事に新鮮さを感じた。
無邪気に笑う彼の横にしゃがみ
「カメラ壊さないでね?」
とカメラを渡すと、おもちゃコーナーにいる子供のように目を輝かせ、写真を眺める絹張君の姿がそこに現れた。
「うわー!すげえ!これお前が撮ったの?」
食い入るようにモニターを見る絹張くん。
やっぱり何年経っても貴方は変わらない。
「そうだよ」
そんなんだから私は…
「写真撮るの上手いんだな!もし良かったら明日俺ここの体育館で試合するから写真撮ってよ」
溢れ出してしまいそうな感情は、唐突すぎる依頼によって蓋がされた。
カメラを丁寧に返してくれるあたり、やっぱり貴方は繊細な人なのだと思う。
「いいよ」
悩む事なくその依頼を受けたのは、久々に話せた喜びからくるものだったのかもしれない。
「ほんと!?明日10時からだから約束な!」
「うん、わかった」
どれほど時が経とうが、私に向けられるその笑顔が大好きなのは変わらない。
「ありがとな、A。練習戻るわ」
久しぶりに呼ばれた名が輝いて聞こえた。
走り去る彼のうしろ姿が途轍もなく輝いて見えて、それを一枚カメラに収めた。
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花梨 - 楽しみにしてます!! (2018年11月6日 18時) (レス) id: e6157cc2f4 (このIDを非表示/違反報告)
橘雫(プロフ) - 花梨さん» ありがとうございます!色々と修正してもっとキュンキュンして頂けるような小説にしていきますので、お楽しみに! (2018年10月6日 22時) (レス) id: 1c9cad39f6 (このIDを非表示/違反報告)
花梨 - 最高すぎです!文才が神すぎです。終始きゅんきゅんでした。こういう感じのガンガン書いてください!めっちゃよみます!フィッシャーズ最高!!! (2018年10月2日 21時) (レス) id: e4eb9fe5a5 (このIDを非表示/違反報告)
橘雫(プロフ) - 書き直しを始めました。急ピッチで進めているため、誤字等あるかもしれません。その場合はご指定いただけると嬉しいです。 (2018年9月25日 15時) (レス) id: 1c9cad39f6 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - すごいですね!最初からこういうのにしようって考えてたんですね!?素晴らしい!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 2870e13e2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:橘雫 | 作成日時:2017年4月17日 19時