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「もう、戻れませんよ」
「いいの。もう、戻る必要なんてないんだから」
胸の金色のバッジを外して、近くにあったチェストの上に置く。
いつだったかお嬢様が言っていた。
キスをする場所にはそれぞれ意味がある、と。
細い腰に腕をまわして抱き寄せると、艷めく髪に唇を寄せる。
髪へのキスの意味をあなたは覚えているんだろうか…?
「お嬢様…」と呼ぶ。
彼女は「…ぃゃ」とか細い声で拒絶した。
「……ねぇ、お願い…今だけは名前で呼んで」
__名前を呼ぶ。
たったそれだけのことなのに、ああ。なぜだろう。
何かが喉につかえているみたいに、上手く声が出ない。
子どもの頃はなにも気にせず名前で呼んでいたというのに…
「……A、」
絞り出すように出した声は震えていて格好がつかなかったから、もう一度「A」と呼んだ。
「龍斗」
「A…っ、」
「…りゅっ…と……っ、龍斗っ」
名前を呼び合いながら二人の間に空気すら入れないように、強く強く抱き合う。
首に回された腕はきつく抱きついて少し苦しいけど、その苦しさですら今は愛おしい。
これが月が見せた泡沫の夢だとしても、
どうか、どうか、今だけは覚めない永遠を……
「月が綺麗ね」
「Aの為なら死んでも構わない」
「私もよ…」
そう囁いた唇に、ゆっくりと唇を重ねた。
【月影】END
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作者名:りゅりゅ | 作者ホームページ:https://twitter.com/ryuryu_movie?s=09
作成日時:2019年1月13日 6時