3 ページ17
.
「懐かしいでしょ?」
電車に揺られること数十分。
降りた駅は見慣れたあの頃の風景とは少し違っていて、こんな所にも彼と会わなかった5年という歳月の長さが感じられた。
学生時代に何度も何度も降りた駅。
でもそこは私の記憶にある街より少しだけさびれてしまっている。
もしもこの場所に前と同じような活気があって、前と変わらない街並みだったら、私はあの頃の私に戻れたのかもしれない。
なんの迷いもなく、ただ彼の隣にいることが当たり前だったあの頃の私に戻れたのかもしれない。
「でもまあだいぶ変わったけどね、ここも」なんて言いながら歩き始めた彼との距離が、1歩、また1歩と広がっていく。
繋がったはずの心がまた離れてしまったように感じているのは私だけなんだろう。
その言動ひとつひとつに振り回されているのはきっと私だけなんだろう。
何年も同じ場所で足踏みを続けていたせいで、私の足は歩き方を忘れたみたいに1歩を踏み出すことすらできない。
前にも、後ろにすら進めない。
2度目の恋。1度は叶わなかった恋。
心はひどく臆病だった。
いつの間にか作ちゃんはもうお互いが手を伸ばしても届かない距離にいる。
彼は何かに気がついたのか、足を止めてゆっくりと振り向いた。
「行くよ、酔っ払いさん」
酔っているせいで歩けないと思ったんだろう。
彼はそんな見当違いなことを言いながら私を見る。
それでも歩き出さない私を不思議に思ったのか、「どーしたの?」と呑気な声で尋ねてくるから、気持ちがむしゃくしゃしてかなわない。
「……酔っ払いじゃない。別に酔ってなんかいない」
「ふふっ、そうだね。わかってたよ、そんなの」
「何年の付き合いだと思ってるの?」っておかしそうに笑う姿をみていると溜まっていた気持ちがぱんっと音を立てて弾け飛んで、
「私はわかんないっ!」
人気がないのをいいことに、私はそのまま声を張り上げた。
.
707人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りゅりゅ | 作者ホームページ:https://twitter.com/ryuryu_movie?s=09
作成日時:2019年1月13日 6時