31 ページ31
.
あの花火大会に、高3の夏は飛貴くんと行った。
勉強もしない。ただのデートは随分と久しぶりなせいか、
「Aさん可愛い!」
「飛貴くんも似合ってるよ」
浴衣姿の飛貴くんが新鮮なせいか、
「花火どこならよく見えるかな?……Aさん?」
「…あっ!えっと…うーん、どこだろう。やっぱり河川敷かな」
……それとも一緒に来たのがあの花火大会だからか、
胸が落ち着きなくざわつく。
飛貴くんと手を繋いで歩きながらも、どうしても甦ってしまう記憶。
あの場所で射的をして…そう。
作ちゃんがへたくそで紬に怒られてて、瑞稀くんは私に射的のやり方教えてくれた。
それからあそこもそうだ。
あそこで紬たちと別れて、作ちゃんの腕を引っ張って歩いたところ。
それでここ。
この路地裏で私は泣いて、泣いて、泣いて、
彼に支えられながら花火の音を聞いた__
「…さん、……Aさん!」
突然トントンっと肩を叩かれて、驚きからびくっと肩を揺らす。
「……わっ!あ、ごめん。どうしたの?」
「あ、いや……ずっと上の空だったから…」
困ったように眉を下げる飛貴くんは繋いだ手にきゅっと力を込めると、「ねぇ、Aさん」と私を呼んだ。
「Aさんは……いつも誰を見てるの?」
「え…」
「今日だって…ずっと上の空で、」
「そんなこと…」
「Aさんが好きなのは俺…?それとも、」
バレた、と思った。気づかれた、と思った。
私が心の奥深くに隠した瑞稀くんを好きだと言う気持ちを、作ちゃんと同じように彼にもそれを見透かされたんだと思った。
「作間先輩?」
挙げられた名前は予想外の人物で、声を失ってしまったみたいに言葉が出ない。
なんで…作ちゃん…?
だって私が好きだったのは瑞稀くんで、別に作ちゃんのことなんて…
「なーんてね、冗談です(笑)びっくりした?」
「え…あの、ひだ…」
「花火始まるよ!」
私の言葉は彼に遮られて何も言えなくて、何も言わせてもらえなくて。
誤解だってひとこと言いたかったのにそのチャンスすら与えてもらえないまま、その日は終わる。
その日以来気まずくなってしまった私たちは、夏休みが明けて季節が秋になった頃、
「別れよっか」
彼の言葉でこの関係に終止符を打った。
それは、天気予報が外れて土砂降りの雨が降ったそんな日だった。
.
2102人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
の - 凄く感動しました。作ちゃんがもう作ちゃんで場面が想像できました。瑞稀くんが結婚するって言った時は泣いてしまいました。片想いって本当にしんどいです。作ちゃん最後は報われてよかったです。久しぶりにこんな胸が痛くなりました。 (2021年8月31日 23時) (レス) id: 2c22fbd9c9 (このIDを非表示/違反報告)
asumin110(プロフ) - これの作間くんがあったら是非読みたいです!!! (2021年3月6日 8時) (レス) id: 310d1e6e98 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー - 今更感想すみません。最後めちゃめちゃ泣いたし井上担なのにすごく幸せな気持ちになりました……読んでよかったです!! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 533c7622c3 (このIDを非表示/違反報告)
じ ゅ き * - 呼んでて涙出てきちゃいました!! これからも作品楽しみにしてますっ (2019年10月24日 19時) (レス) id: 3ad5a89366 (このIDを非表示/違反報告)
ニャニャコ - めちゃくちゃ良かった! (2019年8月24日 15時) (レス) id: 6881cb58fa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りゅりゅ | 作者ホームページ:https://twitter.com/ryuryu_movie?s=09
作成日時:2018年11月19日 11時