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「あれ、A、さん?」
分かりやすく「なんで」を出した顔を見る。
2-3の、
「...藤川、くん」
ほとんど話したことなんてない、おんなじ学年の男の子。
ふんわりとした雰囲気を、私は良く知っている。
「俺の名前、知ってるんだね！」
ふふ、と肩を竦めた藤川くん。
嬉しい、と溢された声に、なんでか胸が跳ねる。
「私の名前も、知ってるん、ですね」
だね、って言うのは、違う気がして、
思わず敬語にした。
どうしてこんなにも、緊張してるんだろう。
机を何個も挟んでるのに、
心臓の音が聞こえそうで、なんだか、私らしくない。
「勿論」
何が勿論なのかは聞かなかった。
聞くのは間違いだと思った。
「Aさんは?どうしたの?今日、土曜日だけど、」
「...あ、課題、忘れちゃって、」
「へぇ、真面目だね！」
俺も課題しなきゃ、って笑った藤川くんに、
藤川くんは?と聞く勇気なんて、なかったのだ。
・・・
一秒。ねえ、なんか、喋ってよ、?
・・・
2秒。整ってる顔に、甘ったるい匂い。
・・・
3秒。他の子にだって、そうして笑うのかな、
藤川くんは、目を反らさなかったから、
私も、目を反らしちゃダメだと思った。
たった3秒。
たかが、3秒。
仕方ないくらい、涼しかったはずの教室は、
直ぐにあつくなっていく。
また藤川くんは笑った。
やめてよ。
そうして笑うから、
気がついたら、足が地面を蹴ってを繰り返していた。
肩で息をするだけで、その度に、頭に
むせ変えるくらいの甘ったるい匂いと、
きれいな笑顔が浮かんで、消える。
思えば、偶然なんかじゃなかったのかもしれない。
思えば、ゆっくり歩いてたのにも、
私なりの考えがあって、なにかあるってことを、
期待、してたのかもしれない。
きっと、こうなることを、知っていた。
『 3秒、目が合うだけで好きな人かどうかわかる。 』
3秒。
たったの3秒。
長く感じて、そうして、心臓が煩くて。
でも不思議と、頭ばっかり冷静で、
こんな魔法みたいなことがあるんだと思った。
名前を呼ばれるだけで嬉しいと笑うような、
そんな素敵なことがあるんだと思った。
先生への挨拶なんかとっくの昔に、頭から消えていた。
息が苦しい。
けど、止まろうなんて思えない。
好きって嬉しい。
苦いのに、嬉しい。
空に見えた笑顔に、
きっと、まえからすきだった。
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