〃 ページ16
▽
初めて路上ライブに来てから1カ月。
今日は、いつもと違う日だった。
いつも、悲しい曲ばかり歌うのに
あの人が、初めて失恋曲を歌わなかった。
卒業ソング？いや、違うか？
とにかく別れの歌だった。
＿大好きなんて言わないで
また君に会いたくなるんだ
このゴミのような世の中に
期待をしてしまうから＿
そう歌った君は、涙を流した。
街灯がその涙を照らして、背景にあるイルミネーションもいつもより美しかった
歌い終わってマイクを切って
君の口ふと動く
”大好き”
これが、路上ライブで歌を聴く最後だった
「･･･いつでも、待ってるんじゃなかったのかよ」
あの場所は、ただの歩道に変わっていた
「･･･まあ、そんなもんだよな」
路上ライブなんて、ずっとやるもんじゃないしな。
それでも、あの日々は今でも思い出せる。
あの微笑みが、俺は大好きだったのかもしれない。
気づいた頃には、あの歩道の木は桜が満開だった。
春、だった。
＿大好きなんて言わないで
また君に会いたくなるんだ
このゴミのような世の中に
期待をしてしまうから＿
俺の気持ちそのまんまじゃねえか。
君は、この気持ちを誰に伝えたかったんだろう。
それも教えてくれないまま、君は俺の前からいなくなった。
冬の魔法にかけられた俺の気持ちは
春になっても、まだ解けてくれない
もう会えないのなら、それでいい。
あの微笑み、歌声、涙
全て思い出に変えて、生きていくから。
あと少しだけ、魔法にかかったままでいいですか。
「･･･さあ、家に帰ってゲームでもするかな。」
どこかで、あの歌声が聴こえたような気がした。
。゜⋆。゜⋆
「続いてのニュースです。
路上ライブがSNSで話題となった齋藤Aさんが、○月✕日にCDデビューすることが決定しました。記者会見の様子をお届けします。」
「皆さん、初めまして。齋藤Aです。この度、CDデビューをさせていただくことになりました。」
「なぜ、CDデビューをしようと思ったのですか？」
「･･･頑張って有名になって、好きな人に好きだって言うためです。
いつも、私が路上ライブやってる時に来てくれる不思議な人で。(笑)
あの人が聴きに来てくれると、歌にも力が入るんです。
いつか、また会えると信じています。」
✤fin
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