43、歪んだ視界の先に ページ44
『ずっと秘めていた想いを話してご覧』
頭の中に声が響く。
これは、誰の声?
目の前に映るのは一人の男だ。
この人は、誰だっけ。
金髪に四角い眼鏡、生真面目そうな顔……そうだ、私のお兄ちゃん。
「…私は」
口が勝手に開き、喉が震える。
「私は、お兄ちゃんが嫌い」
再び、自分の意志とは関係なしに言葉が飛び出した。
国木田の顔が歪んだことに気づいて、漸くハッとする。
嫌い?何を言ってるの、私はお兄ちゃんのことが好きで______
『どうして出来ないんだ!』
突然、頭の中で怒鳴り声が響く。
頭が割れそうなほどに煩い。
しかしAは直感的に気づいていた。
これは自分の幼い頃の記憶だと。
ー私は昔から、よく怒られていたなー
段々と目の前の視界が歪んでいく。
少しして視界がはっきりしてくると、目に入ったのは幼い頃の自分の姿と、今は灰になってしまった国木田家だった。
幼いAは八歳ほどだろうか。
日本風の畳部屋で一人、真剣に何かを書いている。
その時、遠くから扉の開く音が聞こえた。
『お兄ちゃん、帰ってきた!』
Aは途端に顔を明るくさせると、今まで書いていた物を丁寧に折ってポケットに入れ、玄関に走っていく。
嬉しそうな、いたずらっ子のような笑みで。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
嬉しくて、満開の花のような笑顔で兄を出迎える。
しかし国木田はAを見向きもしない。
いつもこうなのだ。
物心ついたときから、遊んでもらった記憶が無いどころか楽しい会話をしたことも無い。
でもAにとってはそれが『普通』だった。
普通の兄弟の形だと思っていたから、辛くはなかった。
今はそれよりも。
Aはポケットに入れていた紙を両手でそっと取り出して中身を確認する。
兄はどんな反応をするだろうか、笑顔を見せてくれるだろうか。
「喜んでくれるかなぁ」
期待に頬を赤く染めた少女は、居間に歩いていく兄の背中を小走りで追いかけた。
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ゆいたろー!(プロフ) - ぺぽんさん» わー!有難う御座います!この作品また見たいと思ってたので嬉しいですッ!! (1月24日 21時) (レス) id: 09168e2c17 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - お相手の作品が削除されたことを確認しましたので、再び公開しようと思います。これからもこの作品をよろしくお願い致します。 (1月15日 17時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - ゆいたろー!さん» ゆいたろー!さん、申し訳ありません。悩んだ末、二章以降を非公開にすることを決めました。こちらを読んでくださる人もいることは重々承知していますが、このまま盗作され続けるのは嫌でした。 (1月10日 18時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - ゆいたろー!さん» 完結した後でも作品を読んでくれている方がいるのは、とても嬉しいです。作品を書き続ける活力になります。これからもこの作品をお楽しみください。他にも作品を投稿しているので、お時間があればそちらもぜひ。 (1月10日 17時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ゆいたろー!(プロフ) - いえいえ、お役に立てて光栄です。これからもこの小説楽しませていただきます (1月10日 17時) (レス) id: 09168e2c17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぺぽん | 作成日時:2022年5月7日 15時