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小さく声をかけても反応はなく、
僅かな寝息だけが聞こえてくる。
林檎を食べてしまったアダムとイヴは
こんな気持ちだったのだろうか。
自然と伸びる手をつい俯瞰で見てしまっている。
「起きないと触っちゃいますよ……」
あつきさんのもこもこの髪に優しく触れると
不思議な感触。くすぐったい。
自分の呼吸音さえ五月蝿くて、
どうかどうかあつきさんが目を覚ましませんように、
って祈りながら、震える手を移動させる。
おそるおそる頬に触れると、
あつきさんがビクッと反応する。
あ「………、んぁ? あ、やべ寝ちゃってた?」
「は、はい…!皆さんもう帰られました!」
あ「そか…………俺も帰らなきゃー
ごめんねー遅くまで」
「…いえ、」
寝起きとは思えないほどテキパキと用意すると、
すぐに扉の前に立ちスニーカーを履いている。
「おつかれさまでした」
あ「おつかれさまでーーす。」
バレてないだろうか、とバクバクと鳴る胸をおさえて
小さくお辞儀をするとあつきさんがぴたりと立ち止まる。
あ「……さっきの、深い意味ある…?」
一瞬痛いくらいに心臓が跳ねて、
冷や汗が一気に溢れ出る。
少しだけ開いたドアがカチャリと閉まる音がした。
「…っえ、と…………ない、です…」
あ「……ふぅん、」
あつきさんは上から下まで舐めるように私を見て、
怪しい、という顔をする。
やっぱりバレてた…どこから?
触ったところだけ?!
目の前がぐらぐらするほどに混乱していると、
あつきさんがスニーカーを脱いで
こっちにズンズンと歩いてくる。
近付くほどに息が苦しい。
私の目の前に立つと、右の口角だけ上げて
髪をわしゃわしゃと崩される。
「わっ!えっ!!」
あ「これでおあいこ!」
と悪戯に笑うと、満足そうな顔で再びスニーカーを履き
颯爽と帰っていった。
その交わし方、ズルいです……
やっぱり敵わないと思うのに、
どんな形でもそばにいたいって気持ちだけは
許してください。
「綺麗な人(赤)」 end
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作者名:まるさ | 作成日時:2022年12月12日 11時