花弁ひとつ【われそら】 (ページ36)

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「…私に会いに来ないでほしいの。」

ウルリカは頭を預けるのをやめ、カールの方を真っ直ぐに見た。
アイスグレーのその瞳に嘘偽りの色は浮かんでおらず、奥底までいつもと同じ優しげな光が揺蕩っていた。

ウルリカはカールの瞳をじっと見る。
冷徹だ何だと言われがちな彼の瞳の中は、案外優しげであることは大半の人が知らない。
いつかきっと、私以外にも彼の暖かい瞳を覗き込む人が現れるのだろうと少し胸が痛んだ。

「…随分とひどい表情だ。」

カールは子供を慈しむような、それでいて深く傷ついた表情で、ウルリカの頬に片手を添えた。
その手のぬくもりを感じ、彼の表情を見た途端、手放すのがこの上なく口惜しくなって、ウルリカは初めて自分の命の短さを悔しく、そしてこの、うつくしい愛しき人を遺していくことを思って声も上げられずに涙を流した。

つつ、とカールの手の輪郭に沿うように流れていくウルリカの涙は、次第に暖かさを失ってポツリと白雪の中へと消えていく。
一度涙を流してしまえば後は止まらず、幾筋も幾筋も、ウルリカの頬とカールの手をなぞって涙が落ちていく。

せめて、微笑み合って終わりたかったのに。ウルリカは止め処無い涙をどうすれば良いのか分からず、また無理に口角を上げた。

「貴方の中の私は、せめて生きたままでいさせて
貴方が私以外の誰かを愛するのは嫌よ」