花弁ひとつ【われそら】 (ページ32)

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われても末に逢はむとぞ思ふページ32

クリスマスになった街はきらきらと機械的な電飾の光で溢れて輝いているのを少し眩しく思いながら、和子は何処か覚束無い足取りで電飾で輝く世界を横切っていく。
どこもかしこも幸せそうな二人組でいっぱいだ。
隣に誰もいない寂しさを紛らわせるように和子の足取りは早くなっていく。まるでこの場から逃げ出したいとでもいうような歩く早さに我ながら馬鹿らしいと心の中で惨めに笑っている。
探し始めてから5年。冬になると、もう諦めてしまおうかという思いが殊更強くなる。
和子は鼻の奥がツンとしたのを感じて、マフラーの中に顔をうずめ、大きな樅の木の近くに置かれたベンチに半ば倒れ込むような形で腰掛けた。
しとしとと降り続く雪を暫くじっと見つめていると、時が止まったような感覚がする。

「そのまま時なんて止まってしまえば良いのに。」

和子は投げやりになりながら誰にあてるともなく小さく呟いた。しかし、小さな呟きは喧騒の中で押し潰されて消えてしまう。
何処か色の薄い景色にはもう辟易した。
"前"と同じく着飾った、"前"と同じく茶道をやった、"前"を思い出してからはそこに在った幸せを追い求めてきた。どれだけ追い求めて、どれだけ同じことをしたって世界は色褪せたままで、何の面白みも感じなかった。
ある日、何となく悟った。
＿＿＿"あの人"がいない世界は色が薄いと。
そう悟ってからは"あの人"を探し続けてきた筈だったのに、気付けば見つからずに5年も経っている。周りはとうに先へ進んでしまっていた。もう見つからないまま色褪せた世界で過ごす他ないのかと思うと、何だかそれも嫌だ。
和子はまごまごとした気持ちを抱えながら、もう帰ろう、と立ち上がった。

「和子＿＿＿?」

その矢先、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
和子はベンチから立ち上がり、声がした方へと振り返った。
その目の先に映ったのは＿＿あぁ、よく似ている。
ぷつりと細い糸が切れたように、和子の頬を滂沱の涙が伝い出す。頬がどんどんと涙で冷えていくのも構わず、和子はただそこに立っていた。
似ている。"前"に自分に向けられていた筈の目線、"前"に自分にかけてくれていた愛おしげな声＿全てがそのままだった。
変わっていなかった＿だからこそ辛い。

「貴方様……!!」

涙でぼやけている視界が鮮明に色付いていくのを感じながら、和子は声の主のもとへと駆け出した。
声の主はしっかりと和子を抱き留めた。変わらぬ腕の中の暖かさに、涙が絶え間なく溢れ出してくる。