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また駄目だったか、なんて少し悔しく思いながら、景品を受け取ると同時に、隣からパァンという少し安っぽいが威勢の良い音が聞こえてきて、私が欲しいと思っていたぬいぐるみがモフリと倒れた。
私が横を見ると「…外れてしまった…」と残念そうに呟く彼がいた。
彼は景品のぬいぐるみを受け取ると、「次へ行こうか」と微笑んだ。小洒落た浴衣をまとった彼と、ファンシーな桃色のぬいぐるみとが絶妙にアンバランスで、私は少し口角を上げた。
「…忠良殿、そのぬいぐるみを…私に下さいませんか…?勿論何の対価もなしにとは言いませぬ!私が取った景品と…」
「あぁ、構わないよ。」
彼は人の良い笑みを浮かべて桃色のぬいぐるみを渡してくれた。私は持っていたお菓子の箱を渡す。
「そのぬいぐるみは直虎が持っていた方が似合っている。」
彼はぬいぐるみを抱えた私を見てより一層深く微笑んだ。
私の頬は残念ながら可愛らしく赤く染まるなんてこともなく、「ご冗談を」と浅い笑みを浮かべるだけだった。
「…次の屋台へ…と言いたいところだが…もうすぐ花火が打ち上がる頃か…景色の良い土手を知っているから其処へ行こう。」
「…はい。」
彼は「迷わないようにな」と幼い子供を嗜めるように言ってから、人気の少ない方へと歩き出した。
私はその後ろを歩く。
彼との距離は然程離れていないだろう。手を伸ばせば届く程だ。
その間が途方もなく遠く感じられてしまった。
ぼんやりと彼の背中を見て歩いていると、いつの間にか人気のない場所で佇んでいた。
見上げれば、紺色の絵の具で塗り込めたかのような深い夜空が何処までも広がっていた。
都会には珍しく、綺麗な澄み切った川が流れていて、ぽちぽちと蛍が飛んでいてとても涼しげだ。
流れる川の音と辺りを僅かに漂う熱気を孕んだ空気との狭間のような生暖かさが正に夏だと感じさせられる。
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