花弁ひとつ【われそら】 (ページ20)

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範以の笑顔を見た3年生や2年生は、「出た、部長のSSRスマイル」と声を揃えて言った。1年生は初めて見た範以の笑顔に目を見開いている。氏直は面白くなさそうに「目立ちたがり屋スマイル」と呟いた。
氏直は元々の生真面目さから、黙々ととんぼで排水口へと水を押し出していく。

「……ブルドーザーみたいだな。」

「うるせー。お前去年も見たじゃん、俺がブルドーザーしてんの。」

「お前そう言えば俺のこと揶揄うとか言って乱入してきて手伝ってくれたよな。今更だけど、ありがと。」

水を一通り排水口へ流した氏直の肩を軽く叩きながら、範以が僅かに微笑む。

誰も範以の笑顔を見ていなかった

その笑顔は氏直だけのものだった。

氏直は、範以の微笑みを自分だけの思い出にできたことに少し満足感を覚えながら、またとんぼで排水口へと水を流していく。

範以の笑顔は幼い頃から何か不思議な特別感というものがある。
一番信頼しているという姉にも心の底からは笑わず、3年間縁があったからと仲良くしている同級生にも心の底からは笑わない。だが、氏直の前では時々心の底から微笑んでくれるのだ。
氏直は堪らなくその事実が好きだった。

🏊

「よし、一通り終わったしプールサイド上がれ〜」

範以の一声で、水泳部の部員がプールサイドへと上がってくる。
氏直は、やりきったような表情を浮かべて、プールサイドへと上がる。プール清掃はやってみると案外楽しいものだと3年目にして気付いたようだ。
教師の話も一通り終わり、ぱらぱらと部員達が帰っていく。
範以は、静かにその様子を見守っている。
氏直はその表情を横目に見る。

「お疲れさん。」

「範以こそお疲れ。」

「あ、お前今、俺の名前普通に呼んだな?」

「呼んでません〜。プール突き落とすよ?」

「危ないからやめろし。」

きれいに磨き上げられたプールの底が、夏の香りを漂わせた夕焼けに照らされ、無機質に輝いた。
その横で、範以は心の底から楽しそうな、氏直だけの笑みを浮かべていた。

🏊

因みにプール清掃の様子の参考はうちの学校です。
6月の初めにはやっとプールに入れましたが、やっぱりアホ寒かったです。初回はマジで慣れないから泳ぐどころの話じゃねぇんだわ。
最近慣れました。