花弁ひとつ【われそら】 (ページ18)

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「…久さん。そんなに見られると穴が開くどころか溶けそうなんですけど。」

「ふふ、私の視線くらいで穴開いたり、こんな冷凍庫みたいな寒いところで溶けるほど君の体はヤワにできてないでしょ。ほら、キャンプ場まであと少しだし、れっつごーしよ〜!」

会計を済ませて、また彼の後ろを走る。
どうして＿＿どうして私とここまで来てくれたの、なんて聞けない。聞いてしまえば全部吐き出してしまいそうで、吐き出してしまえば彼ともう二度と関われないような気がして、聞けなかった。
また自転車で走って、日が地平線に沿うように浮かび、空が茜色と藍色の絵の具を混ぜ合わせたような色に染まる頃にはキャンプ場へ着いた。
テントを準備したり、晩ご飯を食べたりで時間は過ぎていき、気付けばもう夜だ。

「は〜、もうすっかり夜だねぇ… 星…はあんまり見えないけど、見えるような気がする。」

「なんすか、それ。」

まだ少し、ほんの少し赤みの残る空へ手を伸ばしながら呟いた独り言に、彼は微笑をこぼす。頭上には暖かくも冷たくも見える月が浮かんでいる。都心の光に霞んで星は見えない。
ちらりと横目に見た、月に照らされたその顔は、朝方に見た日に照らされた顔よりも、ずっとずっと格好良かった。夜が終わらないでほしいと思うほどに。

みそぎぞ夏のしるしなりけり→←.