19 ページ46
.
「...＿＿＿ねぇ、そこの貴方、起きたらどう?」
上から自分の顔を覗き込んでいたのは昨日自分と同じ寮に入ってきたばかりの一年生。
特徴的な深緑の裏地のフード付きマントと、季節外れな口元を覆い隠す深緑と白銀のストライプのマフラーがよく目立つ。抱え込んでいるのは魔法薬学の教科書だろうか。
俺は起き上がって起こしてくれた一年生の顔をまじまじと見た。
綺麗な顔だとは思っていたが、間近で見るとまるで、いつぞやマレウス様に見せて頂いた値段もつけられないほどの絵画の中にいた女性のように美しい。
青みがかった白銀の髪には到底不釣り合いな深い赤色の瞳にどうも引き付けられるような心地がする。
「起こしてくれて有難う。昨日会ったばかりだが...」
「名前が思い出せないの?一応これでも同じ寮の後輩なんだけど。メイサよ、貴方は...」
「シルバーだ。」
俺が名前を覚えていない素振りを見せると一年生＿メイサは眉を顰めたが、どうやらメイサも俺の名前を忘れかけていたようだった。
「髪色と同じだなんて何だか素敵な名前ね。少なくとも星の名前よりはマシだと思うわ。」
メイサは俺の髪を見たあと、微笑みを浮かべながらそう言った。
「星の名前も中々綺麗だと思うが...メイサという星は聞いたことがない...異世界の星か。」
「えぇ。私は異世界人とやらだからね。母も、叔母二人も、母の従兄弟二人も...私の母の一族はみんな星の名前と同じ名前なの。双子の妹も星の名前に似た名前なのよ。
だからね、私も自分の名前を見ると母の娘なんだなって思えて何だか嬉しいのよね。」
メイサは堰を切ったように喋りきってから、ふと寂しげな表情を浮かべた。
その表情があまりに儚げだったものだから、少し見惚れてしまった。
幸いにも普段からあまり表情に出ない質であるためか相手にはそのことは伝わっていないようで、安心した。
メイサは「喋りすぎちゃったわ、ごめんなさい」と少ししゅんとしたような素振りを見せ、もうすぐ授業が始まるからと歩き出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 188人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
