外つ国に生まれた少年は、日の本のヒーローを愛している。 (ページ32)

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夕陽は少し願望を連れてくるページ32

　
　
　
さようなら。
そう言い合って別れたのは数十分前の事。
オレンジ、というか赤に染まる道をトートバッグを持ちながら歩くと思い出すのはつい数ヶ月前の出来事。
あの時はこんなにも幸せで、嬉しい日々を過ごせるなんて思ってもいなかった。
今なら例えバッグの中の卵が一個、二個割れていた所で多分何も感じない。やっちまったなーと、スクランブルエッグを作るくらいだ。

「幸せ、なのでしょうね」

カシャリとあまりにも赤くなった変哲もないコンクリートの道を写真に撮る。
この綺麗で不思議な気持ちになる景色もいずれ俺は見れなくなる。スイスに戻ってしまえば、スイスの夕陽しか見れなくなる。
帰りたくないと言えば、両親は仕方ないなと笑って俺の人生の話に付き合ってくれるだろう。
でも、俺は、きっと戻る。
向こうで日本の事を思い出話に生きていくのだろう。
彼とも、簡単には会えなくなる。
インターネットがあっても画面越し以外では難しい。

「寂しいね」

もし、俺が帰ると言った時。
飛行機に乗る瞬間でも良い。お別れした後でも良い。
誰か一人でも、寂しくなってくれたら良いな。