口に広がる甘酸っぱさ ページ31
彼と一緒に食事をする中で、見つけたクセの様なもの。
バランス良く消えていく中で唯一異質なもの。
「もしかして、好きなものは後に食べる派の人です？」
「えっ、突然どうしたの」
「だって」
ソレ。と指を指す。
食器の端に丁寧に置かれた一粒の栗。モンブランのてっぺんに置かれていたはずのもの。
「あぁ、これ？特に拘りは無いけど、強いて言うなら切り分け辛いから……？」
「切り分け辛い？」
「うん。柔らかめのケーキはフォークで切れるけど、栗は硬さがあるからケーキの上で切ろうとすると見栄えが悪くなるでしょ？それは作ってくれた人になんか申し訳なあなぁ……って」
「では、お皿の上に置いて切れば宜しいのでは？」
「うーん……それだと栗とフォークが滑って変な所に飛ばないかなとか、フォークで切り分け様とする事によって食器を不必要に汚すのはなとか色々考えるから、最後に一口で食べる様にしてる」
「そんなものですか？」
「そんなものだよ。でも、このやり方が自分の中でしゃらくせぇなって思った時は何も考えずに食べるよ」
「ガバガバじゃないか！」
「そうだよ。その時の気分で生きてるからね」
彼は「最後に」と数分前に行った筈なのに、栗へフォークを刺して口に入れる。
成る程。確かに気分で生きている様だ。
「では、俺も気分で生きまして……帰りにガザイヤさんに行っても宜しいですか？」
「構わないよ。絵でも始めるの？」
「その様な感じですね」
「完成したら見てみたいね」
それはどうでしょうか。
そう返しながらタルト生地に乗ったグレープフルーツを俺はバランスを考えず口に入れた。
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作者名：紗世 | 作成日時：2024年2月19日 20時
