▼自己犠牲の代償 ページ20
頬に落ちてくる冷たいものに眉を顰めて目を開けた。そこは保健室のベッドの上で。顔を覗き込んでいた寧々ちゃんが、大粒の涙を流していた。あぁ、落ちてきていたものは寧々ちゃんの涙だったのか。
「馬鹿！！」
鋭い怒声と共に、強く抱きしめられる。視界に入ったのは見慣れた黒髪で。あたたかさを感じないその体に、酷く安心した。
「よかったぁ、ふたりとも無事だったんだね。あそこから出れたんだ」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ！」
「……花子くん？」
ぼたぼたと涙を流す彼にどうすれば良いのか分からなくて。取り敢えず、その涙を拭おうと持ち上げた右手を強く掴まれた。
「どうして真っ先に自分を犠牲にしたの！？あれがタダの怪異の悪戯じゃなかったら、今頃Aは……！」
「悪戯じゃなくてもああしたよ」
花子くんの顔が絶望に染まる。あれが怪異の悪戯だって事は最初から理解していた。だから私は自分を刺しても死なないと思った。結果、こうやって怪我ひとつなく戻ってこれたんだから。これの何が悪いというのだろう。
「だって、こうあるべきでしょ？」
「は、」
「私だって、今は死にたいなんて思ってないよ。でも、ふたりの事が大好きだから。ふたりを喪うくらいなら、私が犠牲になる。ね、そうでしょ？」
「私はそんなの望んでないよ！！」
それまで泣きじゃくっていた寧々ちゃんが、そう叫んだ。
「誰かひとりが犠牲にならなきゃいけないっていうのは理解してたよ。でも、それと気持ちが追いつくかは別でしょ！？Aちゃんが、自分にナイフを向けた時の……私と、花子くんの気持ち、考えたッ？あの時の事がフラッシュバックして、心臓が止まっちゃうかと思ったんだから！！」
ばふ、と寧々ちゃんがベッドの上に飛び乗る。私は花子くんと寧々ちゃんに挟まれるようにしてふたりにぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「本当に、もうやめて……。心臓何個あっても足りないよ」
「……でも」
「でもじゃない！Aちゃんと同じ事を、私と花子くんがやろうとしてたらどう思う！？」
「何がなんでも止めるよ」
「それと同じなの！私と花子くんだって、同じ気持ちなんだよ……ッ」
わんわんと泣きじゃくる寧々ちゃんに、どうすればいいか分からなくて花子くんを見上げれば彼はぎゅっと眉を寄せた。
「もう二度としないで。自己犠牲が美学だなんて思わないで。代償の方がずっと大きいんだから。俺達が大切なら、Aの十字架なんて背負わせないで」
終わり
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咲楽 - こんばんわあ！！私この作品読んでると思うのが「話の内容神過ぎん？」ですね！物凄く応援してます！でわ (2022年1月23日 22時) (
レス) @page20 id: 537881732c (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - 眠り兎さん» ありがとうございます。実は主ちゃん側のお話も考えていたのですが、力が入りすぎて長くなってしまったので断念しました笑 遅い更新ですが、頑張りますね´`* (2020年3月27日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
眠り兎(プロフ) - とても面白いお話でした！読んでて楽しかったです！！バットエンド、夢主ちゃんが何かなるのかなと思っていたらまさかの花子くんサイド＋世界観がまた違くなるものになるとは思いもしませんでした…！次の更新も応援しています！ (2020年3月24日 4時) (レス) id: 8689215010 (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - 名前さん» ありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しいです´`* 本編よりも甘いふたりを書ければいいな、と思っております。頑張りますね (2020年3月20日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - れもねーるさん» ありがとうございます。駆け足であまり納得のいく最後ではありませんでしたが、どうにか完結出来ました´`* まだ書きたい事は沢山あるので、頑張ります (2020年3月20日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：埜々 | 作成日時：2020年3月6日 22時
