30 ページ1
「A！！！」
初めて、その名前を呼んだ。思い切り手を伸ばせば、彼女の大きな瞳が嬉しそうに揺らめいて。指と指が触れ合った瞬間に、「死にたくないなあ」なんて。
遅いよばか、どうしてもっと早くにそう言ってくれないの。
やっと縮まったのに、また離れていく。ぼろりと涙が零れるのが分かった。
嫌だ、待って、逝かないで。
「ッ何をしているんだよ！！」
怒号と共に、彼女の細い腕に数珠が巻きついた。がくん、とその体が揺れて、俺のすぐ隣で鋭い舌打ちが響く。
「篠木さんを助けるんだろう！！僕が支えるから早く行け！！」
不愉快だ、納得がいかない、と顔全体で叫びながら俺の背中を蹴るようにして押し出した。俺は、多少なら浮けるから。今なら――。
「――ねェ、なんで邪魔するの」
背筋が凍りつくような、冷たい声。無表情のつかさが俺の学ランを掴んで、数珠を断ち切ろうとした瞬間。
「触るんじゃねぇ！！」
少年にバキ、と殴りつけられてつかさの体は後方へ吹き飛んだ。その隙に、どうにか数珠で引き留めている彼女に手を伸ばす。俺を見上げて、ぼろぼろと大粒の涙を零していた。
「A！！」
もう一度、名前を呼べば吊られていない方の手を伸ばして。
指先が触れ合って、絡んで、ぎゅうと強く握る。
初めて触れた彼女の体温は、泣き出しそうになるほど温かかった。
「手、離さないで！！」
俺だって、ずっと浮かぶ事が出来る訳ではない。あまり高く浮かぶ事も出来ない。だから、ぎりぎりのところで彼女の手を強く握って、全力で引っ張った。ぐ、と浮き上がった彼女の体を引き寄せて抱きしめる。
やっと、やっと触れられた。
「は……なこ、く……、はなこ、くん」
「……なァに」
「私、いきてる」
「死なれたら困るよ」
彼女の体は、思っていたよりずっと華奢で小さくて、俺の腕の中にもすっぽりと収まってしまう。ぱらりと数珠が解けた腕が俺の背中に回った。声も体も震えていて、縋り付く様にぎゅうと学ランを握りしめる。
「花子くんが、ここにいる」
「そうだよ」
「……怖く、ない……全然、これっぽっちも怖くないの」
嬉しい、嬉しいよ花子くん。私、生きてるよ。机さんこぶん、やっと縮まったよ。
ぼろぼろと涙を零しながら、えぐえぐと嗚咽を漏らしながら。彼女は、信じられないと泣きじゃくった。何度も存在を確かめるように俺の名前を呼びながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 464人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
咲楽 - こんばんわあ！！私この作品読んでると思うのが「話の内容神過ぎん？」ですね！物凄く応援してます！でわ (2022年1月23日 22時) (
レス) @page20 id: 537881732c (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - 眠り兎さん» ありがとうございます。実は主ちゃん側のお話も考えていたのですが、力が入りすぎて長くなってしまったので断念しました笑 遅い更新ですが、頑張りますね´`* (2020年3月27日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
眠り兎(プロフ) - とても面白いお話でした！読んでて楽しかったです！！バットエンド、夢主ちゃんが何かなるのかなと思っていたらまさかの花子くんサイド＋世界観がまた違くなるものになるとは思いもしませんでした…！次の更新も応援しています！ (2020年3月24日 4時) (レス) id: 8689215010 (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - 名前さん» ありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しいです´`* 本編よりも甘いふたりを書ければいいな、と思っております。頑張りますね (2020年3月20日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
埜々(プロフ) - れもねーるさん» ありがとうございます。駆け足であまり納得のいく最後ではありませんでしたが、どうにか完結出来ました´`* まだ書きたい事は沢山あるので、頑張ります (2020年3月20日 22時) (レス) id: 63e33ac70b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：埜々 | 作成日時：2020年3月6日 22時
