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9.口止め料は高くつく ページ9

*



「……二階の通信保管所。懸賞金をかけた醜い男の正体はそこにある」
「おい」


 中也は眉間に皺を寄せ、左手で掴んでいた太宰の首根っこを解放する。太宰ははぁ、とゆっくり息を吸って不敵に笑みを浮かべた。


「ありがとう。でもうーん。私としては中也にもっと素敵な嫌がらせをしたかったのだけれど……ァ、でもさっきの中也のあほ面を拝めたからいいか」


 中也のあほ面、とは仮ではあるが妹であるAの怯えた声を初めて耳にした中也の唖然とした表情のことである。縹渺たる無限さを彼女の中に感じていた中也の動揺は計り知れまい。



「テメッ」

「まあただ、鎖を壊したのは君だろ中也?私がこのまま逃げたら、君が逃亡幇助の疑いをかけられるよぉ!どうするの、中也!さっき私が言ったことを上手くやれたら、探偵社の誰かが助けに来たふうに偽装してもいい」


 さっき私が言ったこと。
 中也の回転の早い頭は、太宰の今までの会話の中の全ての台詞を反芻し、そこからひとつの結論が出された。中也は震える足を内股に変える。


「……くそっ、二度目はなくってよ!」


 太宰は腹を抱えて笑った。Aは「十分すぎるくらいの嫌がらせだ」と内心では思いながらも、言葉には出さない。これが最年少幹部、太宰治という男である。然し彼女は階段を上がろうとする中也の後に続くのではなく、確りと太宰の全身を見据えて、大きな声を荒らげてこう云った。


「口止め料は、今のじゃ足りないでしょう」


 背を向けていた中也の空色の瞳が、彼女の方へと向けられる。彼女の指先が震えているのが見えた。珍しい動揺だ。中也は西方での任務を終え、半年ぶりに彼女の顔を見た訳だが、まあやはり昔とは顔つきが違う。いや、変わったのは自身の兄の巻き起こした事件直後からである。以前はあんなにも激情を地で浮かべるような少女ではなかった。


「そうだねぇ。うーん」


 太宰は何を言い出すのか、どう高くつくか。
 口止め料。中也には分かる、その高さが。
 自分たちしか知らない彼女の真実が世間に公表されてしまえば、日本中、ひいては世界中が大混乱に陥ってしまうからである。
 さて、見物だと中也は軽く身構えるほど強靭な精神力を得てしている訳でも無かった。なにせ彼女に深い思い入れがあるからである。


「キスして? Aちゃん」
「は?」


*

10.高いキスは顔に見合うもの→←8.トラウマは後に客観視される



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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時

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