検索窓
今日:22 hit、昨日:11 hit、合計:30,103 hit

嗚呼きみ死ぬるきはには何を夢むか ページ43

*


 彼に一歩、また一歩近付いて歩み寄って、彼の首元に抱き着いた。血みどろで、全身ぼろぼろで、生きているのがやっとで。わたしも片足が折られていたから、這いつくばって歩みよるのがやっとで。それでも、彼の首を、両の腕で柔らかく抱え込んだ。死なないで。一緒に生きてよ。わたしの、大好きな人。


「ポール、ポール……あなたは、ポールだ……っ」
「君は、忘れ形見だ……彼の、忘れ形見」


 お互いに存在を確かめ合うように。
 お互いがお互いに、依存して。


 柔らかく、唇同士が重なり合った。
 そこに意味なんて求めるのは、野暮ったらしいってものである。


 いつ思い出しても、鮮明にあの時の光景は目に浮かんで来るようである。まるで昨日のことのようだもの。中也の兄を名乗るポールの唇は、冷たくて、体温がないようで、でも、やさしくて。わたしよりずっと人間らしい、あたたかさがあって。


『じゃ、ファーストキスは私ってこと?』

「太宰くんにまたウソ、吐いちゃった。わたし板の上を除いてもファーストキスじゃないし……」


 ヨコハマの、とある小さなアパートでわたしはそうぼやいた。外見はぼろぼろのようで、中は案外と整頓されている。下手に高層マンションに住んで映像関係の仕事をしている人達に出会す訳にも行かず、こんな辺鄙な場所に住んでいる訳であるが、まあ綺麗。これは私が綺麗好きであるためである。


『君は身近な人物が、君のことを好いていることをいい加減に自覚した方がいい』

「……ちがうもん」

 桃色のシーツの上にうつ伏せになって、真っ白の低反発の枕を抱き締めながら、呻き声のように言葉を発した。


「わたしは一生大好きだけど、あっちは違うから。あくまで私が……アルチュール=ランボオの娘だから、忘れ形見だから大事にしてくれてるだけで、……ああ自分で云ってて悲しくなってきた!」

「……出来れば、だけど、死ぬ前には、……伝えたいかな」

 きっと、死ぬ前には。この命がつきる、その瞬間までには。



*

ふらんす物語→←あなたの温もりを、忘れない



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
110人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。