どうやらわたしは思い通りには生きられないみたいで【文スト】

39.人形じゃないよ ページ39

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　彼が去ってすぐのこと。先程手に握らされた紙の連絡先を右手の手のひらに込めて考えた。どこかおかしい。

　連絡先を書くような素振りが一切見られなかったはずだ。彼が紙に書かれた連絡先を常時持ち歩くような軽薄な人間だということだろうか？いや、軽薄では無いはずである。

　確かに彼はイケメンだ。イケメンに軽薄な人間の割合が高いのは分かりきったこと。わたしは綺麗なものが好き。幹部室の机やティーカップが綺麗なのもわたしが綺麗なものが好きであるからで、それは人間にも適用されるし、わたしは彼の顔を美しいと思ったので第一印象は比較的良かった。いつかの首領が第一印象における視覚の重要性を語っていたのを思い出すが、その話を裏付けるような人だったと思う。

　しかし、さも軽薄だという男が、あんなに絶望した表情を浮かべるものだろうか？

『演技をしている時の君は、自由そのものだ。僕はこの世界にーーー』

　あなたは一体、このあと何を続けようとした？


　……いや、きっとわたしの考えすぎだ。
　そう思うことにしよう。
　きっと二度と使わない、と考えながらも紙に書かれた連絡先をスマートフォンに打ち込み、つづいて「コーリャ」と打ち込んだ。
　ふと思ったのだが、そういえば露西亜人だと言っていた。
　コーリャ。露西亜語圏での男性名の愛称である。ニコライだったか。まさか本名はニコライ？
　ニコライだったらば何故初対面のわたしを愛称で呼ばせたのだ？

　『今は』。今はそう呼んでくれたまえ？
　突然彼が分からなくなる。

『君は道化師は好きかい？』

「道化師、道化師かぁ……」

　わたしはいつも、こんな風に見えていたのだろうか。
　人間ごっこ。
　寂しい寂しい、人間ごっこ。

「ちがう、私(わたし)は人形なんかじゃない！」
「私は人形じゃない」
「わたしは人形じゃない」
「宮坂が人形のはずがない」
「中原Aは人形じゃないよね」


　何度も何度も、繰り返し唱えた。
　頭の中で、文字を捉え、反芻するように。

　どうしたらそう言って貰える？
　私(わたし)は人形から解き放たれて自由になりたい。
　ポール、コーリャ。
　あなたたち以外からも、ちゃんと人間だって認識されたいだけなの。
　不気味で、人を殺して、何度もみんなを悲しませて。
　こんなバケモノに、なりたくはなかった。
　嗚呼、私(わたし)を縛り付けるのは罪の意識。



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