どうやらわたしは思い通りには生きられないみたいで【文スト】

30.死への恐怖 ページ30

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「腐ってもあの組合を欺いた男。対策が必要でしょう。私に考えがあります」
「君が捕らえた鼠、君に任せる」
「恐悦の至り！」

　では、と息巻いたAが、扉から奥に行く際、ふと思い出したかのようにこちらを向いた。

「ああ、そうだマドモアゼル。いずれ君を首輪をつけて飼うのが、私の夢だ。それをお忘れなきことを」
「はいはいありがとうございます」
「私は本気さ」


　中也の真似をするなら、「うぜえ！」。
　このセリフ、言われすぎて覚えそうな勢いである。死んでも飼われたくない。わたしは自由を好むのである。


「いいのかえ？あやつはポートマフィアのカジノを荒らしたギャンブラー。忠誠のかけらもない。多額の上納金で五大幹部の１人となったが、このポートマフィアなど用心棒程度にしか思うておらぬ」
「その通り。そして財力もまた力だ。お手並み拝見といこうじゃないか」


　紅葉さんがしっとりと立ち上がる。
　立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花と言ったものだが、その言葉は紅葉さんの為にあると言っても過言ではないと思う。扉の方へと行って出ていくのかと思いきや、こちらまでわざわざお越しになったので驚いた。


「可哀想にのう。嫌な口説き方をする男じゃ」
「ははは」


　紅葉さんに白い髪の毛を一部摘まれて哀の視線がじっくりと送られる。何か嫌なことでもされたら直ぐに相談せよ、と説かれるが、そうですねとにっこりと笑うしかない。
　相談、相談ね。
　紅葉さんが薄暗い部屋を出ていくのを見送り、「ではわたしも」と続こうとすれば、首領が不意にわたしの名前を呼んだので瞬時に振り向いた。


「君は先程、素顔を見せたのかね」


　先程。Aに幹部のことを示唆された時のことだ。唇がおびただしく震え、奥歯と奥歯がガチガチと音を立てるのを感じた。何せ、首領の前で、というよりも数人の前で感情が制御できなくなるのは初めてだったのだから。


「わたし、やはり素と演技の区別がつかなくなりそうです。喜怒哀楽の「怒」が苦手になっちゃった。どうしたらいいんでしょうか、このまま演技が下手になって宮坂であることがバレてしまったら」


　ただでさえ世間から嫌われていたのに、あの事件の真相が、宮坂があの事件の犯人だとバレてしまったら。



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