27.わたしをあげる ページ27
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わたしの脇の下に置いた手は圧迫されて苦しいのではないか、とちょっと考えた末に身を攀じるも全く効果ナシ。
「ポール......」
心地が良くて寝てしまいそうだ。
五感に感じるのは彼一人。
部屋に静寂が響く。お互いの呼吸音しかこの世界中で奏でられているものはないのではないかと錯覚する。
ふんわり香る柑橘の男性用フレグランス。
フレグランスが鼻を伝って、じんわりと舌にもその匂いが伝わってくるようである。されど噎せることはない優しさ。
彼の首の横あたりにわたしの顔があるので、そこを起点に地平線のように彼の身体が見える。そっと抱き締め返すは彼の硬いスーツ。さすがはフランス男だ、すぐスーツを卸すんだから。うっそりして瞼を閉じた。
「急にどうしたの?」
彼の身体を抱き締め返す。彼の耳元でそう呟けば、長い溜息が鼓膜を濡らした。
「......何も言わないの?」
「いや、また起きないのかと思ったんだ」
「へえ」
心配してくれるの。いっつも地下に閉じこもって幹部室来ないくせに。わたしがいいっていってるのに。そういえばわたしが龍頭抗争から目覚めたときに最初に目が合ったのはポールだった。20年くらいの付き合いなのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。
「わたし、人間じゃないのかも」
「随分な嫌味だな。お前じゃなかったら殺している」
「......ごめん」
「俺にはお前が人間である証明ができるよ」
彼が感じるわたしの血潮は、どんな温かみを持っているのかさっぱり分からない。でも、きっと彼の血潮の方が温かいように思う。わたしよりずっと人らしいのだから、その生命を失って欲しくない。生きる希望がわたしと、それから中也だけで、嵐を待つのならわたしはそれを受け入れたい。......でも、ここからは出てきて欲しい。ひとりで食べるご飯は冷たくて寂しい。
ふと、彼の身体を抱きしめながら言いたくなった。少しだけ声が上擦るのを許して欲しい。
「私、演技上手?」
「上手いかどうかなんて個人の裁量に過ぎぬものだ。......だが、一つ言うならば俺はお前の演技が好きじゃない」
「はあ」
「素が好きだって意味さ」
ぷっと笑いが漏れ出て涙が引っ込んだ。はいはいと彼の胸板を起こすと、彼はわたしの顔の両サイドに手をついてまたじっとした視線でわたしを見つめた。
「すぐ口説く口説く。ごめんねフランス男。諦めて。わたし太宰くんが好きだから」
「そういう所は好きじゃない」
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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時