どうやらわたしは思い通りには生きられないみたいで【文スト】

24.私は優秀な子役 ページ24

*


「でもさ、宮坂ってちょっと気味悪くない？」
「なんで？」
「なんかさ、完璧すぎて。人形みたいな顔でめちゃくちゃ演技も上手くて、なんか作られてるみたい」
「嫉妬じゃん」
「違うし」

　けらけらと笑う声に、思わず唖然とした。
　気味が悪い？
　人形みたい？
　自分の世間からの評判は、賞賛の嵐ばかりだと思っていた。でも蓋を開けてみればこんなものなのか。私はこんな風に思われていたの？

*****


　その日はかんかんに照りつける夏の暑い日だった。
　僻地にある崖の上での映画撮影。なんでも次の映画でヒロインの少女が崖から飛び降りるシーンがあるのだという。実際に崖の上で撮る機会なんて一度もなくて、CGじゃないのかと驚いた記憶がある。人気俳優揃いの映画で、楽しみにしている国民は大勢いたことだろう。

　もちろん台本は全部読み込んだし、安全ベルトを付けられてる時も何も怖くなかった。少女は田舎で育った中学生で、学校で虐められた末にジサツを決意するのだ。私は学校に通っていた時期は極わずかだったが、ほかのシーンは綺麗にやり遂げてしまった。基本的には一発ＯＫ。最後にここのシーンを撮り終えて撮影を終了するのだという。


　その時、私は崖の上なのに足を踏み外してしまった。安全ベルトは着いていた。だから何も問題ないはずだったのだ。

　なのに、私はそのときひどく動揺した。

　いま安全ベルトがちぎれたら、自分が死ぬかもしれないと思ったちょうどその時、思いもよらない恐怖心が私を支配したのだ。

　苦しい。恐怖という慣れない感覚に私は、思わず。


「いやだっ！！！」


　ドオンっと酷い音がした。
　一瞬何が起きたのか分からなかった。
　自分の手から、突然黄色の立方体の亜空間が出てきて、それは崖を削るようにしてめり込み、その場にいた全員を海へと落下させたのだ。30mもある崖で、下の海は流れが速かった。
　再三言うが、この映画は名スターを多く集めたもの。


　私は助かった。
　崖から落ちて、安全ベルトがちぎれても、気付けばちいさな亜空間の中にいたので海に落ちることもなかった。
　しかし彼らは別だった。早々に流された。機材も人も何もかも。
　生まれて初めて、演技以外であんなに絶叫した。声が枯れて仕方がなかった。
　私が殺したのだ。
　私が出した意味のわからないこの空間が、彼らを殺したのだ。


*

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