18.劣化 ページ18
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まだ空が青い無人駅の裏路地。暗殺だとは思わないのか、という樋口の問いに太宰は思わないねぇと軽く頭を振った。
「暗殺にしては人員が中途半端すぎる。樋口さんの後ろに控えている君、出てきて」
「はあい」
「太宰治のお嫁さん候補、中原Aだよ!」
ばちこんっと白いピースサインを頭に乗せた。星が出てきそうな勢いだった。
樋口は「この人こんな人だったっけ」と若干引きつつ、私もこんなふうに見えているのかなと大好きな黒い外套を思い浮かべる。
彼女のピースをする手のもう片方は、人差し指だけを太宰に差し向けて小学生のよくやる鉄砲の真似事がなされていた。しかし出てきたのは銃弾ではなくナイフである。
「ほらこの通り、君たちが誇るポートマフィアの準幹部が作り出した異能亜空間的殺傷ナイフも、私の手にかかればこうだ」
さっすがだざいくんっとAの声音が高くなっていく。樋口がじとりとした視線を送るが、まるで気付いていないかのようにAは頬に手を当てて「かっこいい」とぼやいた。
樋口は森から預かっていた伝言を読み終わり、ふと、なんでもないかのように、まるで天気の話でもするかのような口調で、Aは軽く笑って云った。
「ねぇだざいくん。私、Qを檻から放ったの」
「なっ」
ふざけるな!という号哭が自分に対して発せられたとAが気が付いたのはちょっとばかり遅かった。元幹部の太宰くんがここまで怒るなんて、いやあ太宰くんに胸ぐらを掴まれるのは初めてだな、なんてぼんやりと考えていた。
「自分が何を放ったのか分かっているのか?そうだ、......私の君の気に食わないのはそういうところさ。綺麗なようで、実は命令に従うだけの、まるで……」
機械人形、とぼそりと云った声がやけに樋口の耳に残った。
「ふざけてない。でも、首領の命令なんだもん、仕方ないよね。死んじゃう人がいたりするのはすごく可哀想。探偵社、可哀想だよね。何も、なんにも関係の無い事務員が、組織のせいで殺されちゃうなんて......っ」
膝元から崩れ落ちた。半分出かかった声。後半に入っては、掠れて、涙でぐちゃぐちゃのもので、何を言っているのかすら聞き取るのも危うい。
苦しい、苦しいと叫ぶ心の声さえもが聞こえてきそうな勢いだった。
「......きみ、そんなに下手くそな演技をするような子だったっけ」
冷ややかな声。Aの白魚のような美しい手で包んだ、俯いた顔の眉がピクリと動いた。
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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時