1.あなたが欲しい ページ1
*
「きっと
彼女は形のいい唇で、伏し目がちにそう独りごちる。クリアな声で発せられる語調は、弱まることも強まることも知らない。ただ、透き通った湖のようなアイスブルーの瞳が、濁った泥水のように淀んでいた。その大きな瞳も、作り上げたように皮膚に食い込む二重の線もまた、彼女を非人間的な様相に仕立てあげていた。
人形のように美しい彼女は、そのかんばせに微笑を称える。
「太宰くん、会いたいね。今、何をしているの」
心臓を五本の指でぎゅっと掴まれて、もう時期四肢が動かなくなりそうだとさえ思った。
今日がこんなに辛いのも、きっとあなたのせいだよ。
やっと幹部補佐にまで登りつめたのに、幹部だったあなたは既にいないんだもの。
「振り向いて欲しかったな」
溜息を吐いてこうして感傷に浸るのも、何年目になろうか。
幹部室に設置されたピンクの可愛らしい机にてティーカップを片手に、紅茶を啜りながら昼休憩を取る。ふう、と息を短く吐くと、正面の扉が音を鳴らすのが聞こえた。すると、そこにいたのは黒蜥蜴の構成員の一人である立原道造くん。
「お食事中にすみません」と資料を片手に褐色の豪壮な扉を押して靴音を鳴らしながら此方へと近付いてくる。わたしは「いいんだよ」と快く返事をして資料を受け取ってから、向かい側にある椅子に座るように促した。申し訳なさそうに眉根を顰めて、わざわざ「失礼します」と苦々しそうに云っているあたり、彼は根が凄く真面目な子なんだと思う。
「紅茶か何か飲む？」
「いやいや、流石に幹部室でそんなもん飲めねえっすよ」
「えー、遠慮なんかしないで。一人でお昼を食べるのって......うん、すっごく寂しいんだよ」
まあいつものことだけど、と付け加え、ぷすぅと両頬に空気を溜めてわざとらしく上目遣いで彼の方を睨めば、ようやく｢茶で」という小鳥の鳴き声のようにか細い返事が聞こえてきた。
わたしは計画通りだと目を三日月形にしてにっこりと笑い、「お茶ね」といそいそと立ち上がるのである。
給油室の小棚に手をかけ、ティーカップをもうひとつ取り出す。ここからは、ひとりの訪問者と執務室全体の様相が見られるわけであるが、まあなんと相変わらず殺風景な部屋だ。閑静の一言に尽きる。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 110人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無％さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです！私もごごりのシーンは懲りました！内容は超考えてるので更新頑張ります！本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (
レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無％(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます！！綺麗で且つ迚も面白かったです！！続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております！！ (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です！！！待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです！前作に引き続きありがとうございます！ (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い！！続きを楽しみにお待ちしております！！ (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：砂糖やよい x他1人 | 作成日時：2023年7月11日 21時
