柔らかくて温かい肩 ページ22
*
恐らく動物の毛皮製の、柔らかい素材でできたであろうと思われるもこもことしたクッションに腰掛け、横の彼に寄りかかりながら瞼を閉じてうとうとともう半分は夢の世界に浸ろうとしている最中だった。太宰くんの黒いスーツの肩の部分の生地は決して柔らかいといった訳ではない。ただ、自 殺未遂や返り血などにより洗濯を幾度も繰り返したであろうと思われるそれは通常のよりも幾分か柔らかいのであろうと思われ、冷たい窓の硬い硝子の平面に頭を寄りかからせるよりは何倍も良かった。また、太宰くんが息を吸ったり吐いたりする音や、首元のその温かみのある温度に安心感を覚えないでもなかった。
唐突に、太宰くんの腕が私の肩へと回った。同時に｢着いたよ｣という声が頭上から降りかかり、そしてぱちりと目を開けてから二秒も経たぬ間に乗用車が止まった。彼は手を離したが、その肩を抱いた理由は唐突な停車による怪我を避けるためであったのだろう。その意図を読み取って｢ありがとう｣と云うが、返事はない。数十分瞼を閉じていた為にカラーコンタクトレンズがゴロゴロとしていて視界が明瞭でなかったために、彼の耳や頬がぽっと火照っていたことに私は気が付かなかった。
運転手が後部座席のライトを点灯させてくれたことで、ようやく私はそこで車の外観を見渡すことになる。
｢……銀座？｣
｢そう。そして目指す所はもう少し先。少し歩くけれど、まあ暑くもないし寒くもないし、問題ないでしょう？｣
｢体力勝負のマフィアにそんなことを気遣ってどうするの。全然気にしないでいいよ。運転手さん、どうもありがとう｣
｢運転手に礼を云うマフィアなんて君くらいだよ｣｢そうかな、中也くんだって云うと思うけど｣なんて軽口を叩き合いながら外に出る。太宰くんも背が伸びたなあ、あんまり寝てない癖に、やっぱり男の子だなあと考えながら彼の横顔を見詰めていると、不意に此方を向いた。
｢君は、誰にでもああいうことをするの？｣
｢……ごめん、何の話？｣
唐突に足を止めたものだから、真剣な話だろうと耳を傾ければこれだ。全く検討がつかない。運転手にお礼を云った話か、それともまた別のことだろうか。黄みがかった街灯に照らされた顔は、眉間に皺を寄せて詰問するようにじっと此方を見つめている。
｢私の肩に頭を乗せてきたでしょう｣
｢……ああ、え、ごめんね。嫌だったの？｣
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 116人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
宮古みなこ(プロフ) - 桃桜さん» 返信大変遅くなり申し訳ありません！！！！！(大土下座)更新予定、あります‼️今後の展開も３年ほど前から練ってるネタなので自信あります！いつかこんなものがと言って頂き恐縮です。この上ない褒め言葉です、嬉しいです☺️更新頑張ります！ (1月10日 5時) (
レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
桃桜(プロフ) - コメント失礼致します。言葉選びがとても素敵で、夢主ちゃんの純粋な様で少し濁っている様な、そんな文章で、いつかこのようなものが書けたらなと思いました。宮古さんの投稿、楽しみにしております。 (12月7日 15時) (レス) id: 6aff3cace6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - ジンジャエールさん» ジンジャーエールさん⁉️変な声出しました。作品拝見させて頂いております😭もう読まれた事実が恥ずかしいくらいなのですが、そう言って頂けてとても嬉しいです。精神疾患や大学の講義のせいで中々更新出来ませんが、頑張っていきます‼️ (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
ジンジャエール(プロフ) - コメント失礼致します。繊細で丁寧な文章にすっかり虜になってしまい、読み進める手が止まりませんでした…！言葉選びも文章構成も大好きです。宮古さんのペースでの投稿を心待ちにしております😌🙏 (9月22日 22時) (レス) id: 312345e99c (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - そらいろさん» そらいろさん！お久しぶりです✨️わざわざ読んで頂きありがとうございます‼️昔と同じく伏線回収も語彙も気を配っているので嬉しいです！！！大学始まっちゃうので結構亀になりがちかもしれませんが、これからも更新頑張っていきます！！！ (9月13日 0時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：宮古みなこ | 作成日時：2023年3月21日 1時
