若葉16枚 ページ17
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彼が去ってからまた少し本の世界に沈む。
遠くから砂利が擦れあう音がして、もう彼が休憩なのかと顔を上げると。
「佐賀美……若葉さんですよね?」
先程の同姓の彼よりかは背は高いが威圧感は感じさせない、黒縁眼鏡の穏やかに笑う、男性司書が立っていた。
「ええ、はい。」
「失礼します。彼女、少し体調が悪くなってしまったようでバトンタッチされました」
腰を下ろして苦笑する。
「大丈夫なんですか?」
「ただの腹痛だそうです」
彼はネームタグを示して山本と名乗った。
そこであまりにも自然にも放たれていた言葉に、聞き違いかと問い返す。
「あの……今、『彼女』と……?」
「ああ、注文し間違えて彼女だけ服が男性職員用なんですよ。」
てか変えりゃ良いのに動きやすいとかの理由でずっとあれなんですよ、と愚痴に似たものをこぼしながら笑う。
いや、それよりも。
彼、ではない。
彼女の瞳はどんな色をしていただろうか?
施設を離れる前には寝かしつけていて、最後に見たあの子は目を閉じていた。
もしも私の瞳を受け継いでいたら。
厳重に鍵をかけていた記憶の箱がカタカタと震えながら開きかける。
名は。
名は何だった。
「………………薫……………………?」
視界の端で静かに笑んだ彼が、顎を引いた。
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camellia(プロフ) - すぃさん» ありがとうございます! SideStoryの方もよろしければお願いします! (2019年10月20日 12時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
すぃ - 面白かったです! (2019年10月20日 11時) (レス) id: 045c20b509 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シリウス1315さん» ありがとうございます!! ストーリーは途中途中色んな方向に飛んでってしまってましたが、なんとか終わらせられて良かったです。次回作はもう少しお待ちくださいすみません() SideStoryもよろしくお願いします! (2019年8月22日 7時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
シリウス1315 - 完結おめでとうございます!ストーリーも読み応えがあって、とても面白かったです!毎回お話更新を楽しみにしながら読ませていただきました。SideStoryおよび次回作も頑張ってください!応援してます! (2019年8月22日 2時) (レス) id: ff0fc740f2 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シェリーさん» 遅れてません、大丈夫ですよ。2回も労いのお言葉こちらこそありがとうございます!!!SideStoryに乞うご期待です!!! (2019年8月17日 22時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:camellia | 作成日時:2019年7月19日 17時