検索窓
今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:16,732 hit

雪解け水11滴 ページ12







 不思議な感じだった。



 お互いひたすらに黙っているのに、それほど息苦しさは感じない。




 波長が合う、とでも言うのだろうか。





 もそもそとパンを含んで、清涼飲料水で流し込むと、見計らったように口を開かれる。






 「あの……すみません、司書さんってお幾つなんですか?」



 「…………今年で24ですけど」




 急な問いにも一応返す。



 「そうですか……」


 「何か?」



 「いえ、その…………





 私、娘がいるんですけど。



 今も元気だったらあなたくらいの年頃なのになって思って」






 また、鼓動がうるさく鳴り始める。



 ドク。ドク。






 「亡く……なられたんですか?」





 恐る恐る問うと彼女は自虐的に力なく笑い、





 首を、横に振った。






 「施設に捨てたの。



 大きな楓の木が植わっている所にね」





 ドクン。





 「…………!!」





 鮮やかに脳内で巻き戻され再生される。




 時期になると、学校の行き帰りをする度に踏みしめていた楓の落ち葉。






 「若葉(わかば)さん、でしたよね」




 「ええ、」




 「若葉さん。




 お子さんの名前は、覚えてますか?」







 もしも覚えていてくれたら。




 水面に雫が落ちていくように、心が揺れる。





 期待と切望が大きくなる。



 汗ばむ手を隠すように握りしめた。





















 「…………ダメね、思い出せないわ……」



 「…………そう、ですか」






 そう返すのが精一杯だった。



 24年も前に手離した子の名前。




 覚えてる方が不思議だよな。






 「あの、良ければ聞かせてもらえませんか」



 「え?」



 「あ、無理でしたら良いです。ただ……」






 『自分の母がどんな人生を歩んできたのか、知りたくて』






 「……同じ名字のよしみってことで」



 「………………全てが始まったのは、27年も前のことなの」





 静かに、彼女の半生が。





 私のルーツが語られだした。








.

若葉12枚→←雪解け水10滴



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (16 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
28人がお気に入り
設定タグ:金田一少年の事件簿,高遠遙一 , HoneyWorks , camellia   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

camellia(プロフ) - すぃさん» ありがとうございます! SideStoryの方もよろしければお願いします! (2019年10月20日 12時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
すぃ - 面白かったです! (2019年10月20日 11時) (レス) id: 045c20b509 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シリウス1315さん» ありがとうございます!! ストーリーは途中途中色んな方向に飛んでってしまってましたが、なんとか終わらせられて良かったです。次回作はもう少しお待ちくださいすみません() SideStoryもよろしくお願いします! (2019年8月22日 7時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
シリウス1315 - 完結おめでとうございます!ストーリーも読み応えがあって、とても面白かったです!毎回お話更新を楽しみにしながら読ませていただきました。SideStoryおよび次回作も頑張ってください!応援してます! (2019年8月22日 2時) (レス) id: ff0fc740f2 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シェリーさん» 遅れてません、大丈夫ですよ。2回も労いのお言葉こちらこそありがとうございます!!!SideStoryに乞うご期待です!!! (2019年8月17日 22時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:camellia | 作成日時:2019年7月19日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。