鷹 9 ページ9
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これは一体、何故こうなったのだろうか…。
数分前を遡ると、周東さんが夜遅くに部屋を訪れた事から始まる。丁度あの時よりも落ち着いて、治り掛けの怪我の手当てをしようとしてた頃だった。神妙な面持ちだったけど、足を見て「俺がする」と言ったのが最後の言葉だった。
包帯迄巻き終わった頃、ゆっくりとベッドに押し倒されてからの、そこからずっと無言で。髪の毛が表情を隠す。
周東さんが何を考えて、きっと何か話があって来たんだろうけど、それが一体何なのか分からなくって。押し倒されて、身動きは多少なりとも出来そうであっても、様子を伺うしか今の所できるのはそれだけ。
流石に正式的に付き合ってもないし、お互い好きでも同意のないその行為を周東さんがする筈も無いだろうし。
周東「A」
「っはい」
周東「Aはさ、俺と付き合うこと、嫌?」
「え」
周東「毅さんから聞いたよ。
シーズンに集中して欲しいのを建前に、
俺と付き合うのに時間が欲しいって」
「それは、っ」
周東「好きって言ってくれて、嬉しくてさ、
今直ぐにでも俺は付き合いたいと思ってた。
けど、Aの考えを尊重して
シーズンが終わる迄待ってようと思ってた。
野球に専念しようと思ってた。
けど、時間が欲しいってのは、どう言う意味?」
あぁ、この顔はあの時の顔と一緒だ。花火の時の、あの時の顔と。周東さんを怒らせたいとも、悲しませたいとも思ってはいない。時間が欲しいのは、確かに野球に集中してて欲しいと思ってるのは本当で。その時間を利用して、精神的にも落ち着かせたかった。
いち球団職員で、いち一般人には変わりない。そんな人が、たかだかそこに所属する周東さんと付き合うのにも、立場を考えてしまう。
周東「…A?」
「意気地無しなんです、私。
周東さんを好きなのには変わりなくって、
だけど人を好きになるのにはよく分からなくって。
好きになればなったで、立場を考えてしまうんです」
顔が見れない、し見たくなかった。またどんな顔をされるのか、悲しむのか怒ってしまうのか。そんなのに拒否られるかもしれないからこそ、一先ずの抵抗として抱き着くのが精一杯で。
うだうだと、グチグチと、お風呂に入る前迄に和田さんに相談してた事を、和田さんに聞いて貰ってた事を一層の事話してしまおう。
周東「A、」
「聞いてください、そのままで…。
お願いします」
周東「…うん」
今顔を見られてしまったら、恥ずかしくて死ぬ
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作者名:RIKU | 作成日時:2023年8月23日 21時