コード・ブルー -Best Partner 2- (ページ10)

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No.57 ページ10

(桜井)

ほぼ強制で恵を仕事に行かせる。
いや、ほんと大変だったよ。『仕事しないと私、家に帰らないよ？』って言えば、物凄い勢いで仕事に戻ってった。
隣にいた冴島さんや藤川も、ポカーンっと恵の異変に驚いてたぐらい。

それから数分後に、パタパタと誰かが走ってくるのが聞こえて、はるちゃんと話していた私はその音の方へと視線を向ける。

『奏ちゃん！？』

「A…ちゃん…！大丈夫！？」

『へ？あ、もしかして新海先生から聞いてた…？』

「うん、Aちゃんがいない時に救命に行こうと思ったら今、ICUにいるって……」

涙目できゅっと拳を握りしめてる姿を見て、何年か前にもみたその姿に辛くなる。
あの時の私には、彼女の気持ちを癒す方法が無かったけど。

私は奏ちゃんの腕を掴んで、自分の元に引き寄せる。
ビクっと驚きながらも、嫌がること無くそのまますんなりと私の腕の中に奏ちゃんはすっぽり収まった。

『ごめんね、心配かけて。私は大丈夫だよ』

「っ良かったぁ…！お兄ちゃんみたいに…いなくなっちゃうんじゃって…」

『…っ大丈夫だよ、もし涼太くんの所に行ったら私怒られちゃうから』

「っふふ、そうだね！何、Aまで来てるんだー！って！」

『ほんとよ！涼太くんの方が年下なのに、生意気だったんだから』

何て笑って会話していたら、はるちゃんは微笑ましそうに隣で見ていて、私は奏ちゃんとはるちゃんのお互いを紹介する。

「ねぇ、A先生？」

『ん？』

「この前の質問、答えてくれる？」

この前の質問、それはあの質問だ。
──私はピアニスト、だから桜井A先生じゃなくて田沢A選手に質問。自分が人生の全てを捧げて来た物がなくなった時、何が残るの？

私は本当の事を言おうか迷ってしまう。
でも、少しでも彼女にとっていい方向に進むのなら。

『いいよ』

「うん、じゃあ改めて。田沢A選手に質問。自分が人生の全てを捧げて来た物が無くなった時何が残るの？」

『──何も残らなかった』

「……ぇ」

『ごめん、私は残らなかったが正しいと思う。私は確かに医大生の時もプロの世界で戦ってた、けど私は奏ちゃんのように選択肢なんて無かったの。奏ちゃんは手術を受けなければピアノが確実に残る、けど手術を受けたら残らないかもしれない。
私は、その"かもしれない"って選択がなかった』

私の言葉に奏ちゃんとはるちゃんが息を呑む。
その雰囲気に不安を感じたのか、医局から皆が来た。