No.44 ページ45
(桜井)
私は彼女になんて言ってあげたらいいのだろう。
一般的な回答なら命だ。でも、彼女にとってピアノは命よりも大切。
だから私は迷う、自分も同じような選択に迫られた事があるから。
「だから、救命医の桜井A先生じゃなくて一人のプロとして質問してもいい？」
『一人のプロ…？』
「お兄ちゃんから聞いてるから知ってるよ。先生、バスケの選手だったんでしょ？」
『っ！？』
「私はピアニスト、だから桜井A先生じゃなくて
『……奏ちゃん』
私の当時の気持ちを伝えたら、それは奏ちゃんのためになるのかな。
それが希望になるならいいけど、逆に不安な気持ちを増やしてしまうんじゃないか。
正解がわからない。
そう思っていた時、後ろから誰かが入ってくる。
誰だろうと思ったら藍沢だ。
「…桜井」
『…藍沢』
「白石が探してたぞ」
『…うん、分かった。すぐ行くね』
藍沢はそれだけを伝えに来たのか、そう言って部屋から出ていった。
質問に答えられてないのに、ここで席を外すのは……。
そう思っていたら、ピアノから私にとって奏ちゃんは視線を移す。
「行っていいよ」
『ごめんね、ありがとう』
「でも」
席から立ち上がり扉に手をかけた時後ろからそう聞こえて私は振り返る。
奏ちゃんは優しく笑って口を開く。
「今度会った時にさっきの答えを聞かせて、それと最後にね」
『うん』
「お兄ちゃん、天野涼太の事を一人の男性として好きだった？」
天野涼太くん。
私がアメリカにいる時に主治医を務めた人で、奏ちゃんとは年の離れた兄妹だった。
年齢も私と差ほど変わらないけど、彼の方が年下だったから君付けで呼んでいた。
奏ちゃんの最後の質問。
これは答えなきゃいけない、ううん。答えられる。
『──うん、今も昔も私は彼が好きだよ』
「ありがとう、Aちゃん！」
私は彼に言うように笑って言った。
奏ちゃんはその答えに満足だったみたいで、昔のように私を呼びながら微笑んでまたピアノを弾き始めた。
私は知らない曲だけど、その曲を背に救命の元に帰るために歩く。
『藍沢』
「…なんだ」
『…奏ちゃんの腫瘍』
エレベーターを待ってる間に聞いてみる。
すると、後ろから知らない声で答えが返ってきた。
「小脳で3.5cmです」
振り返れば黒のスクラブを着てニコニコした人が立っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 382人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Yuri - 更新、楽しみにしています！ (2018年8月2日 21時) (
レス) id: d785c31dd6 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - ☆ゆゆまる☆さん» ありがとうございます。すぐに確認し訂正させて頂きます。 (2018年5月27日 18時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - みかさん» 返信遅くなりすみません。ありがとうございます、すぐに訂正します。 (2018年4月14日 18時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
みか - No.１８で「行ってたの」が「言ってたの」になってますよ (2018年4月2日 13時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - 真衣さん» 感想ありがとうございます！これからも頑張ります！ (2018年3月30日 14時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柚希拓海 | 作成日時：2018年3月20日 21時
