No.32 ページ33
(桜井)
ここまで来たんだ。横峯先生なら出来る。
そう信じて、チェストチューブを入れてるこの短時間を待つ。
『チューブが曇ったら正しい位置に入ってる証拠だから。……どうかな？』
今までで一番長い沈黙。
そして小さな、本当に小さな声で聞こえた。
《……曇った》
『Perfect. あとはチューブが抜けないように注意して、良くやったね。白石先生とヘリポートで待ってる』
ヘッドマイクをとって、『ありがとうございました』と礼を町田さんに伝えてから待っていた白石先生と合流し、ヘリポートに向かうために走る。
けど走るスピードを早めた瞬間、身体がガクっと違和感を感じさせる。
うそ、こんな時に…！
「A！？」
「いいから…！ただの立ちくらみだから早く行って…！」
白石先生を強引に向かわせて、足に無理やり力を込めて近くのベンチに向かう。
震える足に鞘を打ち、何とかベンチに座ってポケットから薬を取り出す。
手がカタカタと震えるのを抑えながら服用し、少しだけ動けるようになったのを確認して救命のメンバーが来ないであろう場所を探す。
こんな状態を見られたら最悪だ、絶対に見せたくない。
人気のない廊下まで壁を使いながら歩いてベンチに倒れ込むように座る。
早く、お願いだから薬効いて。
「っ…！」
何分かしてやっと震えが収まり、立ち上がって少しずつ歩く。うん、大丈夫かな。
恵に謝らないと、と思っていると聞きなれた声が聞こえ思わず足を止める。
「換気がうまくできないくらいで、いちいち連絡してくるな。緊張性気胸を疑ったんだろう」
「…疑いました」
「じゃあ自分でどうにかしろ」
あのコンビ…言い方があれなのは何言っても変わらないから私はほっといてる。
仲介に入ろうかと悩んでいると話はどんどん進んでいく。
「それにヘリの中で制限があったとは言え、下手くそすぎだ」
いや、流石にアンタのノルマが高すぎない？
言ってる事は言い方は別で、あってるから私は何も言わないけども。
「だが、思い切って層を大きくとったのは正解だ。短い時間で確実にドレナージするには最適な大きさだ」
あれ、今褒めたよね？
横峯先生の方に視線を向けると、明らかにズーンって効果音がなってそうなほど沈んだまま顔を伏せて「…はい」と答えてる。
横峯先生気付いて！褒められてるから！
「それに4歳の子を優先したプランは良かった」
「……ぇ」
やっと気付いたー！
私は一人こっそりガッツポーズした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 382人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Yuri - 更新、楽しみにしています！ (2018年8月2日 21時) (
レス) id: d785c31dd6 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - ☆ゆゆまる☆さん» ありがとうございます。すぐに確認し訂正させて頂きます。 (2018年5月27日 18時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - みかさん» 返信遅くなりすみません。ありがとうございます、すぐに訂正します。 (2018年4月14日 18時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
みか - No.１８で「行ってたの」が「言ってたの」になってますよ (2018年4月2日 13時) (携帯から) (レス) id: cb44cdb910 (このIDを非表示/違反報告)
柚希拓海(プロフ) - 真衣さん» 感想ありがとうございます！これからも頑張ります！ (2018年3月30日 14時) (レス) id: 0d726a2806 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柚希拓海 | 作成日時：2018年3月20日 21時
