キミの存在価値。1 (ページ50)

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5人になった日。9 ページ50

智side

もし、俺ら5人がもっと幼くて、養護施設にお世話になれる年齢だったらどれだけ楽だったんだろう、と考えるようになった。

俺らは中途半端に大人だった。

いつまでも親戚を頼る訳にはいかず、葬儀が終わると、色んなことが落ち着いて、ちゃんと働けるようになったらお金返してくれればいいからと、ご好意で買ってくれた小さな家に引っ越した。

引っ越したら、カメラも取材班も家の前に来なくなった。

これは後から知った話だけど、周りの方々が助けてくれたらしい。

周りの環境が変わっても、5人の時間は1秒たりとも動いていないのだけれど。

翔は血がだめになってしまったせいで実習はお休み。

和と潤は精神科病棟に別々の部屋で入院。

雅紀は"いつも通り"を演じて、実習も授業も家事もこなしている。

...俺も"いつも通り"出来てるかな。

家に3人。

雅紀の作るご飯も美味しいけれど、

何だか味がしなくて、

3人同じテーブルで食べているのに、

何だか距離を感じて。

1週間ほどそんな日々が続くと、翔はこれからは部屋で食べるからとお盆に乗せて自室へ行ってしまった。

今日から2人だね、と寂しそうに笑う雅紀。

こんな時でも、頑張って笑おうとする雅紀の優しさが、逆に辛かった。

だから、

俺は逃げた。

翔は自室で1人。

俺も自室で1人。

雅紀はリビングで1人。

同じ家で過ごしているのに。

ほとんど顔を合わせなくなった。

同じご飯を食べているのに。

同じテーブルで食べることは無くなった。

"いただきます"も、"ごちそうさま"も

"行ってきます"も、"行ってらっしゃい"も

"ただいま"も、"おかえり"も無くなった。

泣き声は無くなったけど、一緒に笑い声も無くなった。

いっぱい、無くなっちゃったなぁ。

表情のないこの家で、

はは、と意味のない乾いた笑いが込み上げた。

涙はもう枯れてしまったかな。

昨日は何を思ったか、

父さんと母さんがいて、あーちゃんもいて、俺らも笑ってて、珍しく俺がご飯を作ってて。

っていう、つい1ヶ月前までの"日常"の夢を見た。

涙は出なかった。

そっか、1ヶ月前はこれが"日常"だったんた。

智「あーちゃん、早く帰っておいで...。」

ぼそり、と空へ叶うはずのない願いを呟いた。