先輩と後輩 ページ5
自分で食べる…のは虚しいから嫌だな。
かといって誰かに渡すアテもないし。
先輩が受け取ってくれたらそれは嬉しいんだけど。
「せ、先輩」
「ん？」
「あの、いらないかもですけど、やっぱり渡したくて、あの、その、受け取ってください」
要らないとは分かっていたが、どうしても渡したくてチョコの入った包みを渡すと、驚いたような表情をした後、嬉しそうに微笑んでくれた。
あれ、朝はいらないって言ってたのに。
首を傾げていると、先輩は壁に手をついていて、僕は壁と先輩に挟まれていた。
？？？
これっていわゆる壁ドンでは。
状況を理解していないまま見上げると、先輩は笑顔でこちらを見てくる。
今のこの逃げられない状況で、旭先輩はありがと、とお礼を言ってくれる。
そのお礼と共に、おでこにキスをしてくる。
ひぇ……。
余りの驚きに声も出せずにはくはくと口だけ動かす。
「かわいい」
「あの、えっと、」
「公園寄ろうか」
にんまりと満足気な顔を浮かべる旭先輩に、情けない声を絞り出すと、その様子を見た先輩が僕を気遣ってくれたのか、手を引っ張って公園まで連れて行こうとする。
自分でも赤面しているのが分かる程顔が熱い。
行ってる途中に覚めてくれるといいんだけど。
先輩は余裕そうなのに僕だけすぐ赤くなって、ほんと恥ずかしい。
◇
「このベンチでいい？」
「え、あ、はいっ」
先輩が指さしたベンチに腰掛け、旭先輩は僕の渡したチョコをカバンから取り出す。
自分で作ったから歪なのは仕方ないけど、先輩が持ってたら何でも様になるな、なんて思っていると、僕の目線に気づいたのか、どうしたの、と心配そうに訊いてくる。
今思ったことをそのまま言ったら先輩は困るだろうか。
うん、困るだろうな。
やめとこ。
「なんでもないです」
「そう？ ならいいけど」
未だに心配そうにする先輩に、大丈夫ですから、なんて続けると、やっと納得したように前を向いてチョコを口に運ぶ。
やっば先輩、何してもイケメンなんだけど。
僕の恋人がこんなイケメンな人でいいの？？
「うん、すごくおいしい」
「そうですか？ よかったです」
来年はビターがいいな、なんてこちらに微笑んでから言う先輩。
一緒に頭も撫でられ、やっと顔の熱が覚めてきたころだったというのに、また熱が集まる。
もっと先輩みたいにかっこよくなりたいのに。
またフリーズしていると、先輩が目の前でおーい、と手を振り、我に返る。
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