とある日の昼下がり ページ1
「なぁ知ってるか」
友達が誰に聞かれるでもなく小さい声で話し始めた。
一緒に昼飯を食べていた俺含め全員がその声に吸い込まれるように顔を寄せる。
話の内容はこうだ。
いわく、もう今日はバレンタインデーだと。
いわく、まだ俺たちはチョコを貰っていないだろうと。
いわく、外国では男の人もプレゼントを渡すらしいと。
まぁ、つまるところ、もうもらえないなら俺たちだけで菓子パをして、それをバレンタインプレゼントにしようということだ。
そこで一人、気づいてはいけないことをぽつりと吐き出すように呟く。
男でお菓子交換なんて、寂しいだけだし、誰も喜ばないだろ、なんて。
「おいおまえぇぇ！ それはなぁ！ 気づいたら駄目なことなんだよ……」
いきなり素に戻った俺たちは、あはは、と乾いた笑い声をあげるも、虚しさが埋まるわけでもなく。
結局ここに集まってるのは彼女がいない奴どもで、そいつらとつるんでる俺も例外ではなく。
いやぁ虚しいむなしい。
やっぱり彼女と恋人出来たら満たされるのかなとか、考えない日はない。
…いや、常に考えてるな？
「去年は先生がチロルくれたけどさ、今年は………」
「いや、もしかしたら帰り学活にあるかもだろ」
去年はあった担任からのチロルチョコがないことも一緒に思い出し、テンションは最悪。
どうにかポジティブに言い換えようとするが、初めの時の様に戻る気配すらない。
帰り学活？
無いに決まっている。
だって、今朝先生が「ごめん、忘れたわ」なんて、男子生徒の死活問題にかかわると言っても過言ではないことを軽々しく言ってのけたのだから。
まぁわざわざ声に出したらもっと虚しくなるだけだから言わないけど。
多分みんなわかってる。
というかダッシュで買って来いよこんな経験先生もしたことあるだろ。
普段から授業が嫌なのに、さらに年に一度の癒しすら奪うとか、もはや人間じゃない(真剣)。
「それはないだろ」
ちょうど近くを通りかかった大友がそれを否定する。
さて、この憎らしいほどイケメンな、大友悠久。
なぜか彼女がいない。
なんでだよ！
もういっそのこと彼女作ってくれた方がまだいいんだけど。
ここは元男子校で、その名残か俺らのクラスに女子は一人もいない。
一学年下には三分の一は女子だと聞いたが、俺らの学年はもう絶滅危惧種。
もはやこの校内の女子と付き合った瞬間ワシントン条約に触れるレベル(この学年に限る)。
生類憐みの令くらい簡単に配布されるわ。
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