四十二話目 ページ44
「国木田さん、彼をお願いします。
皆様、つい先刻はご迷惑おかけしました。私達は横浜にある武装探偵社の社員です。どうか貴方達の見た事はご内密にして頂けませんか」
拘束した状態で国木田さんに身柄は渡す。
軽く服に付いた汚れを払うと、周りの人達にお願いする。
武装探偵社という名前を聞き、動揺した様に不審な挙動を取る奴が遠目に見えた。
彼が所謂裏社会の住人と謂う奴なのであろう。
駄目押しでにっこり微笑む。
きゃあ、という黄色い歓声が所々から纏まって聞こえる。
「あ、あの」
「はい、なんでしょう？」
「れ、連絡先交換しませんか？それからどこかでお茶でも……」
頬を紅潮させて携帯を両手で持ち、歩いて来る女性。
あちら側に彼氏さんでも居るのだろうか、と考える。
すると彼女は徐におれに声をかける。
かけられたからには応えない訳にはいかず、先程と同じ様な微笑みを自分の顔にたたえる。
おれが応えると、彼女は緊張した様にお茶に誘って来る。
早く帰りたい。
「申し訳ありませんが、仕事中ですので」
「連絡先の交換だけでも……！」
「そんな事言われましても……」
申し訳無さそうな笑顔で、便利な言い訳である仕事中を使って断る。
然し、食い下がる様に交渉してくる彼女に困ってしまう。
面倒だな。
此れも取り零しさえ無ければ……いや、彼が此方に逃げ込まなければ済んだだけの話なのに。
無ければ今頃散歩を終わらせて部屋の中だと言うのに。
絡むなら国木田さんにして呉れ。
いや、彼も満身創痍でそんな事出来無いか。
内心大きな溜息を吐き、面倒だ、と思っているが、小説の様に丁度良く誰かが通りかかって呉れる訳もなく。
「予定が迫って来ていますので、此れで。すみません」
「何あいつ、＿＿ちゃんの誘い断るなんて。見た感じ高校生よね」
「ちょっと顔が良いからって。どうせ性格くずよ。口調も丁寧で優良物件かと思ったのに」
なんとでも言ってろ。
そう心の中で吐き捨てる。
性格が悪いとかどうでもいい。
面倒だもの。
あーあ、そう考えると裏表の無い野薔薇や真希とか恵とか、わりかし良い方なのかもな。
思って居る事をはっきり言って来るし、五条先生は其の言葉が良く刺さって居る様だけれど、猫被りよりかはましか。
しかも猫を被って来た筈なのに断った瞬間掌を返した様に毒を吐く。
猫被りが処世術なのは知って居る。
処世術なのに其れを嫌われる様な使い方して大丈夫か。
あの取り巻きは別として、友達離れて行きそう。
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