…◇ ページ10
開けられている通気口に、消えたシェリー、残された手錠。
これらから導き出されるのはたった一つの事実。
シェリーが逃げたということ。
これはチャンスだ。彼女を捕まえれば、より上層に入り込むことができる…！
しかし彼女が細身だったとはいえ、あの通気口を通り抜けるのは不可能だろう。
一体どうやって…
ふと、カメラデータをハックしているカルーソーに目がいく。
僕は気づかれないように静かに後ろに近づいた。
「あら、シェリーはまだ見つけてないわよ。」
「おや、気づかれてしまいましたか。」
おどけて見せると、彼女は画面に反射していたと答えた。
こんなところでずっと画面に向き合っていたら目が悪くなりそうだなと思う。
「カメラがこの辺りに少ないのを利用されてるみたいね…」
小さい呟きだったが、彼女の打ち込むキーボード音と、コンピュータのファン物音以外は一切しないために拾うことができた。
「カメラの位置を覚えてるのか…なるほど…」
独り言が多い人なのかもしれないと思ったが、白々しく嘘をついている可能性もある。
ついでに組織の情報が出ないかと、注意深く画面を観察する。
画面を見る彼女は楽しそうだった。
「＿いないわね。バーボン、USBに取り込むから渡してきてくれる？」
見張もお疲れ様、と言った彼女は僕がここに送られてきた意味を理解していたようだ。
見張りなんてしてませんよ、と言っても「カメラデータの改竄がないかでしょ？」と言われたのだから、何も言い返しようがない。
会話をしながら、言葉の端々などから能力を把握して行く。
実力の底が見えない彼女なら公安のサーバーでも手が出せてしまいそうなのだから、うすら怖いのだ。
その気になられてしまえばなんでもできそうなため、NOCリストを盗まないのかなどと軽率に聞くこともできない。
そのマスクの下で一体何を考えているのやら。
「じゃ、お願いね。」
渡された時、微かに触れた手先はひどく冷えていた。
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作者名：小波優凛 | 作成日時：2023年3月22日 19時
