第八篇 疑惑 ページ8
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「お前は先刻"この銃はエンブレムだ"と云ったよな。連中が何者か示す為の。其れを安吾が持ってるって事は……」
織田がそう呟くと、太宰は横に首を振った。
「此れだけでは何とも云えない。安吾がこの銃を連中から奪ったのかも知れないし、或いは連中が誰かを陥れる偽装証拠としたかったのかも知れない」
『……本当かなぁ』
「一つ気付いた事を教えるよ。昨日酒場で飲んでいた時、安吾は"取引の帰りだ"と云ったろ?
あれは多分、嘘だよ」
「何?」
『……』
「安吾の鞄を見たろ。上から煙草、携帯雨傘、カメラと戦利品の骨董時計が詰まっていた。携帯雨傘は使用されて拭き布に巻かれていた。そして出張先の東京は雨だった」
「雨が降って傘が濡れていた。なんの不都合がある」
『でも安吾は車で取引に行ったんじゃ……?』
「……!」
「蘆花の云う通り。あの傘が使われたのは取引の前じゃない、傘は時計の上に置かれていたからね。そして後でもない」
「何故だ」
「あの傘の濡れ方は二〜三分使われた感じじゃない。たっぷり三十分は雨に濡れていた筈だよ。其れだけ雨の中に居たにしては、安吾の靴もズボンの裾も乾いていた。取引が八時で我々があったのが十時……取引の後二時間では乾くのに時間が足りない」
「着替えを持っていたのかも知れない」
「酒場の帰りに安吾の車に便乗したが、靴も着替えも無かったよ」
『道端のお婆さんに貸してあげてたとか……』
「其れなら態々其の日に返さないだろう」
太宰が目を細める。
「私の予想では安吾は取引には行かず、雨の中誰かに会い三十分位会話をしてから残りの時間を潰して帰って来た。安吾の様な情報員は屡々、雨の降る路上を密会の場所に選ぶ事がある。室内より密談に向いてる」
「安吾はポートマフィアの秘密情報員だ。誰にも明かせぬ密会の一つや二つはあるだろう」
「ならば一言云えば善い。"云えない"と。そうすれば私達も其れ以上は聞かない。そうだろ?なのにアリバイまで用意して、密会を隠したかった理由は何だ」
『……太宰』
下を向いていた徳富がぽつりと呟いた。
『安吾は……仲間だよね?』
「………」
「……織田作、蘆花
安吾を、頼む」
「……」
『っ……』
三人を、どこまでも深い夜の闇が包み込んでいた。
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こめこめコメダ(プロフ) - てかみそさん» 仕方ねぇ続けるべ☆いぇい☆ (2022年12月22日 14時) (レス) id: b8ad08ce24 (このIDを非表示/違反報告)
てかみそ - こめこめコメダさん» 辞めたら………いやなんもしないけどほら。私はさ。プリ小説やってるし?私の思いもこめさんに継いでもらうって決めてたし((((((((殴 (2022年12月22日 14時) (レス) id: ca294d51e0 (このIDを非表示/違反報告)
こめこめコメダ(プロフ) - てかみそさん» うぅ〜……私も最近占ツクしんどくなってきたし辞めちゃおっかな… (2022年12月21日 3時) (レス) id: 3c5b67e3ca (このIDを非表示/違反報告)
てかみそ - こめこめコメダさん» まじだよ (2022年12月20日 18時) (レス) id: ca294d51e0 (このIDを非表示/違反報告)
こめこめコメダ(プロフ) - てかみそさん» マジかよ…… (2022年12月20日 11時) (レス) id: b8ad08ce24 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめこめコメダ | 作成日時:2022年11月5日 19時