23話〜欠けたもの〜 ページ24
いくつかの質問に答えたあと、2人は部屋を出て行って、その間に私は看護師から検温などの検診を受けた。
検診が終わるのとほぼ同時に2人は部屋へ戻ってきて、医者がまたぽつりぽつりと話し始める。
医「まず、彼ですが貴女の仰る通り一ノ瀬隼人さんで間違いありません」
その言葉に安堵を覚えた。
……でも、この違和感は何？どうして隼人だという事を確信できなかったの？
どうして、隼人だと聞いて安心したの？
…あれ………面影……ってなんで……？
医者がゆっくりと口を開く。
医「……どこか、違和感を感じますか…？」
違和感……？さっきから少しずつ感じるもの。
なにかのズレ。
自分が誰だか分かる。けれど______。
違う。
自分の名前は分かる。けれど、自分が…分からない……？
名前は……？ "一ノ瀬 A"
なんで病院に……？ "分からない。でも身体が痛い"
目の前の男の子は……？ "一ノ瀬隼人。私と双子のお兄ちゃん"
あれ、そんなに背高かったっけ……？声も……そんなに低かった…？
私の今の年齢は……？ "分からない。でも掌の大きさや腕の長さから考えて中学生くらい"
……え？中学生……？
『……私は、誰ですか……？』
＊＊＊
医「一ノ瀬さん、貴女は今1部の記憶が欠けている状態です」
先程医者に言われた言葉が頭の中で
医「隼人さんのお話とAさんの答えを照らし合わせた結果、恐らく4歳より後の記憶が喪失している状態です。
一時的なものかもしれないのでもう少し調べてみましょう」
どうしようもなく泣きそうになった。
"私"はここにいるのに。自分が誰だか名前だって言えるのに。
それなのに、"私"は私じゃない。
"私"が誰なのか分からない。
少しでもこの不安を拭い去ってしまいたくて、必死にこれまでのことを思い出そうとするけれど頭が痛むだけだった。
暫くすると医者と看護師は病室を出ていって、私と隼人だけが真っ白の世界に残された。
隼「疲れただろ？」
その言葉に首を横に振る。
隼「俺とAのことについて少し話したいんだけど、大丈夫？」
『……うん』
きっとこれは隼人なりの配慮。
少しでも私が誰なのか"私"に教えようとしてくれてるんだろう。
隼「まずはAの事だな。今お前は＿＿＿＿」
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作者名：湯のみ | 作成日時：2021年10月11日 7時
