私の好きな彼は冷たい【第五人格】 (ページ2)

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紅い花ページ2

彼が私の喉元に凶器を刺すまでに、抑えていた気持ちを泣き泣き吐き出した。

　ああ、何故こうなる前に伝えることが出来なかったのか。

　彼が泣いている。普段は無愛想で、ほとんど笑いかけてくれることなんてなかった彼が、静かに涙を流している。

　最期に見る彼の表情は、せめて笑顔が良かったな。

――――やり直したい。

――――彼と出会う前まで戻って、満足するまで好きだと伝えたい。

――――まあ、きっと出来ないだろうけど。

「A、A、起きなさい、もう朝よ」

　そう言って微笑みかけてきたのは、医師のエミリー。
　あれ、私はさっき死んだはずなのに、なんで自室のベッドにいるんだろう。

　もしかして、ここは天国か何かなんだろうか。
　ああ、でもそれだとエミリーがいるのはおかしいな。まだ生きてるんだもの。

　ふわふわした頭で考える。
　じゃあ、さっきのは夢？

「...エミリー、カールさんは？」
「カールさん？」
「うん、新しく来たサバイバーの」
「A、寝ぼけてるの？新人くんが来るのは明日でしょう？」
「......え？」

　エミリーの言葉で完全に目が覚めた。
　カールさんが来るのは明日？どういうこと？彼は荘園に来て二週間くらいは経っていたはずなのに。

「やっぱり寝ぼけてるのね。顔洗ってきたらどうかしら？きっとすっきりするわよ」
「...う、うん、そうするね」
「それじゃあ、私はエマを起こしに行ってくるから」
「うん、また後で」

　パタン、扉が閉まりエミリーが出ていった。
　今私が考えているのは、本当にあり得ないことだ。
　現実ならば、あってはいけないこと。

――――もしかして、時間が戻ってる？

　私が最期にあんなことを願ったからだろうか。
　確信はしている。何故なら、カールさんが荘園にやってくる前日もエミリーが起こしに来て、エマを起こしに行ってくると、全く同じことを言っていたのだから。

　生憎記憶力は良い。動作すらも、全て最初にあらかじめ設定されていたかのように同じなのだ。

　...まぁ、いい。時間が巻き戻っていなくても、私のすることはただ一つ。カールさんにアタックしまくることだ。

「頑張れ、私」

　小声で呟き自分にエールを贈った。