愛があれば【ホークス】ⅱ (ページ13)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:11,207 hit

ごめんね、本当はページ13

.

『あれ、轟くん？』

扉の前で突っ立っている彼の名前を呼ぶと、小さく肩が揺れた

「えっ、あ、レプリカ…？」

顔には分かりやすくどうして此処に居るのかと書かれている

『ちょっと様子見にね

轟くんは？お見舞い？』

「…まあ、はい

ちゃんと母さんと向き合わなきゃなって」

『…そっか』

以前、エンデヴァーさんとの間に溝があることを聞いた

轟家の家庭事情は他と比べてちょっと複雑なのだろう

エンデヴァーさんも真面目で良い人なのだけれど、少しお堅いというか上を目指す意識が高過ぎるような気がする

『ていうか、やっぱりお隣りって轟くんのお母さんだったんだね

轟くんと似てるとこあるし、そうなのかなって予想してたんだ』

そう言ってクスりと笑うと驚いた様子で聞き返した

「え、隣りってレプリカの…」

『…うん

私のお母さん』

上手く笑えず眉が下がってしまったが、誤魔化すように彼に早く病室に入るよう促した

『がんばれ』

中に入っていく彼に拳を作って小さく応援すれば、僅かながらに表情が和らいだように見えた

『……』

やがて私も、静かに扉を開けて中に入った

風が柔らかく吹き込んできて、カーテンがゆらゆら揺れている

暖かな日に照らされて、病院のベッドに座る母はぼんやりと外を眺めている

何度来てもこの姿は変わらない

『お母さん、』

「…」

『今日も良い天気だね』

「…」

『なにか見える？』

「……」

簡単に変わってなどくれない

『…お父さん』

その言葉にゆっくりと、だけどどこか焦りが混ざりながら振り返る

お母さんは、まだ

まだお父さん(あの人)を追い続けている

『まだ見つからないや、…ごめんね』

本当は探したくなんかない

顔も知らない父親なんて他人も同然

興味すら湧かない赤の他人

お母さんをこんな窶れた姿にしたのはその赤の他人だ

そんな人を一体誰が探すというのか

ごめんね、お母さん

私ね、本当は

『(……無償の愛が欲しい)』