年に一度、人生に何度も［N HBD!!］ (ページ24)

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言葉の雫１ページ24

「二宮先生おはようございます」

「ん、おはよう」

めんどくさそうに玄関に立っている。
猫背気味で、おまけに眠そう。
昨日、ちゃんと寝れてないのかな。

とか、余計な心配を心の中でする。

トントン、と靴を鳴らしながら履く。
ついで、を装って先生に話しかける。

「二宮先生、この前の話なんですけど……」
ふわ、と不思議な顔をする。

「何だっけ？」
「あの、古事記の市杵島姫命の」
「ああ、この前途中だったやつ」
「それです」
「昼休み？放課後？」

その、必要最低限の事しか喋らない口が好き。
先生の紡ぐ言葉が好き。

「じゃあ、昼休みで」
「了解、空けとく」
んふふ、と目尻を下げて笑う。

では、と一瞥して教室に向かう。

片想いして、まだ一年。

干からびていた土地に堕ちたその雫の喜びを知ってしまったらもう生きられない、みたいに。
私はもう、先生がいなきゃ、生きられない様な体になってしまった。

先生は、雫だ。

水でもなく、雫。

一滴ずつしか与えてくれない、雫。

それは、ポトン、と堕ちた瞬間に広がり。
私、全体に染み渡っていく。

だが、すぐにまた、渇いてしまう。

雫で得られる喜びと、
恋で得られる苦しみは、比例する。

ぎゅう、と痛む胸を無視して、机に本を広げて読む。