二人なら３ ページ20
それは、どんどん込み上げて、私の目に侵攻した。
「…泣いてんの？」
「泣いてないよ」
「これはなに？」
人差し指で水を掬う。
「和也くんへの愛」
「なにそれ」
和也くんの顔を、少し覗くと。
和也くんの目にも少し涙が溜まっていた、
気がした。
また、沈黙が続いて、ゆっくり時間が流れる。
終焉へ、近づく。
「怖い？」
「……ちょっとね」
「おれも怖い」
「でもね、これからのこと考えると怖くないよ」
「これから？」
「和也くんとの、二人の世界」
「ああ」
「楽しいよ、絶対」
「二人の世界っていう名前が楽しそうだもん」
「確かに」
ぎゅう、とまた、和也くんが手に力を入れる。
「Aが死んだら、悲しむ人いっぱいいるだろうな」
「いるかな？」
「いるでしょ」
「和也くんもいると思うよ」
「いないよ」
「私は悲しいよ」
「……何で？」
「だって、和也くんが死ぬなんて、考えられないし耐えられない」
「おれも、Aが死ぬのは、考えられないし耐えられない」
「いなくなるのは、怖い」
「だから一緒に死ぬんでしょ？」
「うん、私が先だけどね」
遠くで、パトカーのサイレンが聞こえる。
ほら、ゆっくりしてる時間は無いよ。
早く。
と、云おうと思って顔を上げると、和也くんは悲しい顔をしていた。
「どうしたの？」
「……ね、Aさ、もしかして……」
「……」
「……やっぱやめる。ちゃんとあと追うから待っててよ」
「……和也くんが思ってるので間違いないよ」
和也くんが先に死ぬのも、
和也くんと一緒にいなくなるのも、
私には耐えられないよ。
1分1秒でも、あなたに生きてて欲しい。
そんな、私の重い愛に、気づかれてしまった。
「馬鹿」
「最期まで馬鹿だよ、私は」
「うん、まず、おれを愛しちゃったところで馬鹿だよ」
「本当にね、馬鹿すぎる。でも、後悔してないよ」
「それならよかった」
パトカーが止まる音が聞こえた。
「時間だ」
二人、一緒に歩き出す。
最期に。
「和也くん」
「ん？」
その声も、
仕草も、
喋り方も、
言葉選びも、
性格も、
言い切れないほど全部。
「愛してるよ」
「俺も、愛してるよ」
ぽん、と魔法がかけられたみたいに一瞬だった。
いつの間にか、夕陽が無くなっていた。
最期に見えた、二宮くんが、
笑っているような気がした。
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作者名：緩雨 | 作成日時：2017年6月12日 19時
