彼の合図１ ページ11
ガチャ
鍵が開く音がした。
これが、私が玄関へと走る合図。
「ただいま」
「おかえり！」
和くんが、にこ、と笑って。
私も、それに応じる。
これも、合図。
ぎゅー、と自分も、きっと和くんも痛いぐらいに、抱き締める。
「疲れたぁ……」
「いっつもお疲れ様です」
「本当だよ、お疲れ様、おれ」
肩に顎を乗っけられる。
息がかかって、くすぐったい。
「今日のご飯は？」
「今日、大事な会議があるって聞いた」
「うん？」
「和くんのことだから、きっと、プレゼンを大成功に収めてると、予想して……」
「……」
「ハンバーグにしてみました、てあらってきて！」
肩をぽーん、と弾いて鞄と上着を受け取る。
んふふ、と可愛く笑ってから
「大成功に決まってるでしょ？」
と可愛く洗面台に向かった。
さてさて。
ご飯用意しなきゃ！
実は、これも合図。
合図っていうのは、二人で決めて作るもの。
辞典通りだったらそうかもしれないけど、私たちの合図は。
和くんの行動、言葉、顔の動き、咳払いとか……、まだあるけど！とにかく、私が観察に観察を重ね、研究した結果が、この合図たち。
私が、勝手に決めたもの。
「うまそ……」
さっきの流れを例に取ると、
和くんが帰ってきたドアの音が鳴ったら玄関へ。
和くんがにこって笑ったら抱きつく。
和くんが手を洗いに行ったらご飯の準備。
他には。
「いただきまーす」と言ったら、バタバタ、と冷蔵庫に走り、冷えたグラスにビールを注ぐ合図。
テレビの方をチラッと見て、すぐ眼をそらしたら、
「はい、和くん」
「ん、」
リモコンを渡す合図。
そう。
私たちの日常は、合図で成り立っている。
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作者名：緩雨 | 作成日時：2017年6月12日 19時
