わたしの全部を、あなたに。［S］ (ページ39)

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38 恋人ページ39

戻ってくる。

慌てて、いかにも寝そうでしたっていう演技をする。
聞いてない、聞いてない。
言い聞かせる。

ただ。
胸が痛い。

がちゃ

先生が軽蔑したような苛立ちを含む表情で車に乗り込む。
ハァ、とため息をついて携帯を後ろの座席に投げる。

「…眠い？」
何を言われるかと待っていたら、アクセルを踏みながらこう言った。

「…ちょっと」
「あんだけ寝たのに？」
「あんだけ寝たからです」
「意味わかんねぇ」
駐車場を素早く出る。

聞いてないって言い聞かせたけど、そんなんで忘れられるぐらいの衝撃じゃない。
あの会話をもう一度再生する。

多分。
先生には彼女がいる？

ああ、違う。
先生は別れたつもり、って言ってた。
だから、過去形。
先生には彼女がいた。

きっと、先生は別れたつもりで、でも彼女が私はまだ別れてないって言い張って？
で、今、家にいると。
だから、早く帰れって言ってたのか。

……良くある話だ。
別れ話が拗れた、良くある恋人の会話。

いつの間にか、胸の痛みもなくなって、
今は、喜びでしかなかった。

だって。

先生は、恐らく昔好きだったであろう人を置いて、

今は私を優先してくれてるんでしょ？

信号で止まった車を合図にちらっと先生を盗み見る。

それに気づいた先生が何かを悟ったように私を見て優しく笑う。

見つめ合う。

まるで、本当の恋人みたい。

どちらともなく、引き寄せられるみたいなキスをした。