わたしの全部を、あなたに。［S］ (ページ37)

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36 滑稽な声ページ37

振動とともに目覚めた。
ガタガタと車が走っていて、
いつまで走っていたのだろう、空はもう赤味がかっていた。

助手席から、ふと運転席を見ると先生が電話していた。

「あぁ、大丈夫です。…え？相葉くん？……さぁ、僕は知らないですね。……そんな事ないです、順調です。………」
先生の滑稽な声が密室に響いた。

相葉って……、相葉くん？
でも、だとしたら先生が知らないわけがない。
嘘ついてるか、違う人か。
疑心が募り、鼓動と脈が一気に増加する。

先生が鏡を見て私を確認した。
では、といって電話を切ると愉悦の色を目に浮かべながら一笑する。
「聴いてた？」
鼓膜に響いた。

「残念ながら、先生の声しか聞こえませんでした」
「残念ながら」
「はい」
「聞く意味なんてないのにね」
「それは聞いてから確かめます、なんの話ししてました？相葉って誰ですか？相葉くん？」
「お前めっちゃ聞いてんじゃん！」
「当たり前です」
「なんで？」
本当に不思議そうな顔をする。

「なんでこんな外が暗くなってる……？学校から私の家まで何分か覚えてますか？」
「歩いて20分、自転車で10分、だろ？」
「分かってるじゃないですか。じゃあ、ここは何処なんですか」
「しー、秘密」
人差し指を口に近づけた。
歯を思いっきり食いしばる。

そうだ、携帯。
誰かに連絡しよう、と鞄を探す。
でも、足元にも横にも鞄はなかった。

「かばん……」
「ああ、後ろ」
「返してください」
「だーめ」
「誘拐ですか？」
「んー、かも知れない」

近くの駐車場に車を止めて、先生が私を見た。