わたしの全部を、あなたに。［S］ (ページ30)

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29 崩壊への嚆矢ページ30

「…っやめてください！」

できる限りの力を出して、引き離す。
でも、大人の力には敵わなくって、無理矢理立たせられた。

「壊すって何をですか…」
「紫の上にしたように？」
「……」
「そんなもんで終わらせる気はないけど」

先生が、手を離したと同時に、
ぐらっと、視界が歪む。
ふらついて慌てて机に手をつくわたしを見て、満足げに笑う。

「どうする？逃げる？」

どんどん、机と先生に追いやられて、
私を、部屋に押し入れたときに、がちゃ、と音がした。
逃げれない。

ふと、『見たら、殺すよ』と言っていた先生の声が再生される。

…逃げたら、殺される？
脳裏に浮かぶ。

「……私は、逃げません」
先生がふふん、って勝ち誇ったように笑う。

「いいこだね、すわれば？」
目配りして、顎で椅子を制す。
大人しく座り、先生がはぁ、と溜息をつき、びくっとなる。
次は何をされる？

「そんな怖がらなくてもいいじゃん？」
「……」
「逃げないって言ったのは、お前の方だからな」
頬を、するんと撫でられる。

「…A」
甘い、声で私を呼ぶ。

「……かわいい」
そう言って、キスをした。
二回目のキスも、先生によって奪われ、深く深く堕ちた。

崩壊への、嚆矢。