ー花嫁の旅ー ページ27
街に出ると人で賑わっていた
人のざわめきがとても心地よく感じた
(最近はずっと藤田さんと二人きりだったからなあ)
周りに人がいるだけでこんなに安心できる
ふと、建物と建物の間の暗い路地が目に入る
前に路地に入ったときはあの人にあったんだっけ
『A』
彼の声が脳裏に響く。
ゾッとした。私はあの時強く掴まれた腕に触れた
もう人通りの少ない道になどいくものか
そう心に決め、私は歩くペースを上げた
その後、骨董品店で時計や鏡などを見たり、書店で読めない本とにらめっこしたりと、充実した１日を過ごした
ずいぶんと家から離れたようで、気がつけば公園まで来ていた
「東京にこんなところがあるんだ」
広く、手入れされた公園を一目で気に入った私は木々や大道芸人達の芸を見ながら公園を回った
そろそろ一周するだろうか、というところで池を見つけた
静かで、底が見えないような池だった
蓮の葉が揺れ、間から見える水は沈みかけている太陽の光りを浴びてキラキラと輝いている
「綺麗」
その美しさに心を奪われた私はしばらく時間も忘れて池を見つめた
見つめれば見つめるほどに吸い込まれていきそうな感覚さえした
ふと、冷気を感じ取った
横を向くと、青い着物を纏った長い髪の女性がそこにいた
私に微笑みかけている彼女は恐ろしいほどの美人で、まるでこの池の様だった
彼女は笑みを浮かべたまま私に歩み寄り、私のすぐ目の前で立ち止まった
目が離せない
白い手はゆっくりと持ち上がり、私の頬を撫でた
心地のいい冷たさが私を包み込んでいくような感覚に眼を閉じる。
「.......辛くはないかえ。その数奇な運命を抱えて生きるのは」
脳裏に浮かんだのは相反する二つの記憶だった
あの人の顔。逃げられないぞ低い声で言われたこと
家族や友達、藤田さんや菱田くんとの楽しかった時間
辛いのか、楽しいのかわからない
結局私は答えられなかった
「.....またおいで」
あの冷気を感じなくなった私は眼を開けたが、そこに彼女はいなかった
目の前に広がるのはすっかり暗くなっている公園の風景だけだ
「って、早く帰らなきゃ！」
怒った藤田さんの顔が思い浮かんだ私は公園の出口に向かって駆け出した
途中、先ほどの女の人のことを思いながら
(数奇な運命、か)
終わり
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作者名：Yukki | 作成日時：2015年2月15日 22時
