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結局肉じゃがは辰哉が起きてくることもなく無事に完成した。
いつも通りの、私が小さい頃からずっと食べている家庭の味。
辰哉は気に入ってくれるかな。
涙を拭いて、辰哉を起こしに行った。
「辰哉。起きて。ご飯食べよう」
「ん…」
「辰哉〜？」
なかなか起きない辰哉。
まだ寝かせてあげたほうがいいのかな、なんて思って先にシャワーを浴びることにした。
いつか、どこかで聞いた話なのだが、泣くならお風呂で泣くといいらしい。
人目も気にならないし、声が出てもシャワーの音で誤魔化せる。
それから、泣いてもお湯の湯気のおかげで保湿されて目が腫れなくて済むらしい。
だから今日は、少し長風呂をして精一杯泣こうと思う。
それで涙を水に流して。
明日は辰哉を笑顔で見送ってあげるんだ。
きっと、涙で見送られるよりも笑顔で見送られるほうが辰哉は好きだろうから。
お風呂から上がると寝室に辰哉はいなかった。
リビングに行くとソファーに座ってテレビを見ているところだった。
「起きたの」
「うん。おはよ」
「もう夜よ？」
「俺の夜はまだ始まったばかりだよ」
よくわからなかったけど彼がニコニコしているので何も言わなかった。
肉じゃがを温めてご飯をよそおうとすると辰哉がお好み焼きは？と言ってきたのでそこで初めて昨日の余り物のことを思い出した。
ご飯は最悪冷凍しなきゃ、なんて考えながら昨日の余りのお好み焼きを温める。
電子レンジの前で突っ立っていると辰哉が後ろに歩いてきて私を抱きしめた。
電子レンジの扉に反射する私たちは、どこかの少女漫画の表紙のように見えた。
「ねえAちゃん」
「なあに？」
「大好き」
「私も大好き」
軽くキスされて照れていると電子レンジから温め終わりの機械音がしてそれを食卓に運ぶ。
ふたりで手を合わせて食べ始める。
辰哉は1番初めに肉じゃがに手をつけた。
私は箸も持たずに辰哉をじっと見つめる。
「ねえ！これめっちゃうまい！」
「ほんと？」
「うん！もう毎日でも食べたい！」
うまいうまいお好み焼きと一緒に食べ進める辰哉。
そんな風にお互いに歳を取っても辰哉にもおいしいって食べて欲しかったな。
もう十分泣いたのに溢れそうになった涙を抑えて私も肉じゃがを口に入れた。
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作者名：雪野真哉 | 作成日時：2024年3月15日 22時
